第78話:いっちだんけちゅ! の、ひ!
最後の授業が終わり、ジェノさんが鞄に教科書とノートを片付けると、すぐさまジェノさんに向かって両手を上げて抱っこちて! のポーズをとる。
「あらあら。急いで帰りたいようですね」
「早く相談したいのでしょう。それでは、また明日ね、ソラちゃん」
「またね」
クラスメートさん達とも手振りあって、教室を出る。
ちょうど、待機室を出てきたアヤネちゃんに鞄を持ってもらい、帰路を急ぐ。
ソラちゃん、急がなくても、今日明日でお店がすぐ出来るものじゃないよ。
――はやく、パパにあいたいの!
あ、いつものソラちゃんですね。
家に着き、ポテポテと家中を走りながらパパを探した。
さすがに、2階に上がる階段は危ないからと、ジェノさんに抱きかかえられたけど。
「パパ~! どこ~!」
階段を上って先の廊下で呼びかける。
「ソラリス! そんな大声を出してどうしたんじゃ?」
ドアの1つが開いて、パパの巨体がニュっと出てくる。
ジェノさんに降ろしてもらうと、パパ目掛けてダイ~ブ! パパにしっかりと受け止められて、そのまま、たかいたか~いされて、きゃっきゃと喜ぶ。
「パパと遊びたかったのかの?」
「しょうなの!」
そうだったっけ?
どうやら、たかいたかいされたときに、お店のことを聞くという想いは、雲を突き抜けてお空の星になってしまったようです。
「なにして遊ぼうかの~?」
「追いかけっこちよ! あたち、おに!」
それ、永遠に終わらないやつですね。
パパを追いかけるのが凄く楽しいらしいから、別にいいんですけどね。
「ソラちゃ~ん、お花屋さんのこと聞かないの?」
「しょだった! だまちゃれるとこだった」
誰に騙されたの!?
まあ、アヤネちゃんのおかげで、聞くという想いは無事の帰還を果たしたよ。
リビングに場所を移し、ソファーに座ったパパの膝の上でもじもじ。
「あのね、おはなやしゃん、ちたいの」
「お花屋さんかぁ」
「おかね、いるって、おねえちゃんがいってたの」
「お金は心配ないが、どうやって花を売るんじゃ?」
「まほうで、しょだてて、うるの」
「それは……最初は売れるかもしれんが、しばらく経ったら売れなくなるの」
「どちて?」
本当にどうしてだろ? ソラちゃんが魔法で成長させた花は、綺麗に咲いてるのに。
「ソラリスの魔法で育てた花は、枯れないじゃろ? 花畑で魔法で育てた花は、今も枯れないで残っているし、湖の水も透き通るような透明度で、濁ることを知らんしな」
ん? それっていいことじゃないの? 手間がかからず、ほぼコストがかからないってことだよね?
「枯れないってことは、買いなおす必要がないってことじゃ。花は本物じゃが、造花と一緒じゃの」
あ~。その問題もあるのか~。
「う……うわぁぁぁん!」
ソラちゃん! 泣かないで! 一緒に考えよう!
「この! ばかぁぁぁ!」
ぱっちぃぃぃん!
ジェノさんのビンタがパパの左頬にヒット!
「ソラちゃんの夢を砕くなんて、許せません!」
ぼっこん!
アヤネちゃんの鞘に入った剣がパパの脳天を打つ。
「ちょ! 痛い! 違うんじゃよ! 魔法に頼らず、花をゆっくり育ててそれを売る楽しみをさせてやりたいと思ってじゃな!」
「回りくどい!」
「最初からそう言え!」
あ、床に魔法陣が。
「グランゾ~! ソラちゃんを泣かせるって、どういうことかしらぁぁ?」
裏のラスボス、トレンティーさんが登場。
「待て! 本当に待って! ソラリスや。俺が悪かった。でもな、3年まってほしいのじゃ」
「うぐぅ……ヒック……しゃんねん?」
「そうじゃ。この国の大地は長い間、精霊の怒りで土地が痩せておる。それを2年かけて、妖精たちでゆっくりと肥沃な土壌を作って、残り1年で花を育てて、花畑が満開になって、学園を卒業したら店を開こうの?」
「やくしょく」
「ああ。約束じゃ。学園を卒業したら店を開こう。じゃから、今は頑張って学園に通おうな」
「あい!」
パパの体にしがみついて、胸に顔を押し付ける。
「ジェノ! アヤネちゃん! 全力でソラちゃんの夢を支えるわよ!」
「「はい!」」
「四天王のみんなには、世界中から花の種を集めてもらいましょう。ふふふ。お花屋さん3年計画、発動よ!」
「はちゅど~!」
おー! と、みんなで右腕を高く掲げ、ソラちゃんの、おはなやしゃん、ちてみたい、は、魔王国の国家事業になった……のかな?
――ソラしゃんも、がんばるんだからね!
お、お~。
――ソラしゃん! ごぴゃ、ごぴゃく!
え!? このあいだ、450超えてて、ビックリして椅子から転げ落ちたばかりだよ?
と、とりあえず、落ち着こう。深呼吸~。
――す~……は~、す~……は~。……ぶくまくと、ひょ~か、ありがとごじゃましゅ!
セリフ取られた!? て、大事なとこちゃんと言えてな~い!