第74話:しょんなとこに、いるから。の、ひ!
抜け出し常習犯のソラちゃんでも、真面目に授業を受けるものだってある。
その1つが剣術。
「ソラ様、次は剣術ですから、キュロットスカートに着替えましょう」
キュロットスカートは、スカートの外観をしたショートパンツだ。
これも学園指定の運動着で、男子と女子に別れて授業が行われるといっても、他人にパンチラを見られるのは、貴族的によろしくないらしい。
――オムツだから、へいきなのにね。
わたしはパンチラよりも、オムツのほうが平気じゃないんだけど。6歳にもなって未だにオムツとか……。
――おねちょ、ちちゃうから、ちかたないね。
そう……だね。
ソラちゃんとわたし、同時に眠りについて、同時に目が覚める。その特性上、眠っている間の尿意に気付けないという……。
「はい。着替え終わりましたよ~」
「いちゅのまに!」
ジェノさんの能力も未だに謎だ……。
「よ~し。素振りから始めるぞ~」
リンバーグの掛け声と共に、剣術特待クラスの女子5人が木剣を持っ振り上げる。
もちろん、その5人の内にソラちゃんも入ってるんだけど。
木剣を振り上げる、重心が後ろに振られる、とてとて……ぽてん。尻餅をつく。
体は成長が止まった4歳児のままである。筋力なんて未発達だぞ!
木剣なんて振れるわけないじゃん!
「ゆうちゃぁ!」
「いやいや! 俺のせいじゃないだろ! あ~、アヤネさん、ソラちゃんと模擬戦をやってもらってもいいかな?」
「は~い。いつものだね」
と護衛として見学してたアヤネちゃんが木剣を手に取る。
「アヤネちゃん、あしょぼ~!」
「あそぼ~ね~。因子開放だけで、魔法強化なし。世界樹の枝はダメージなしで」
――けん、そらしゃんのばん!
はいはい。どうしてうちの聖女さんは攻撃的なんでしょ?
大人しいソラちゃん……今更想像できんな。
「いんちかいほう!」
パパの力の存在が体中に染み渡る。
木剣はその辺にポイして、代わりに手に顕現した枝が剣の形に変わる。
アヤネちゃんは腰を落とし、キツネ耳が前を向いてピンと張り詰め、フサフサ尻尾がタイミングを計るように左右に揺れる。
「ふっ!」
踏み込みと同時に距離を詰めて、中段から横薙ぎが飛んで来る!
わたしは後方に飛び退き、着地と同時に前方へ踏み込むと地が爆ぜて急加速。そのまま振り抜いた体勢で隙だらけのアヤネちゃんに剣を振りおろす。
「たっ!」
アヤネちゃんが高くジャンプして剣を避けて、空中で体を捻ってわたしを飛び越えて後方に着地。
――もおぉぉぉ!
いや、怒ってもさ~。身長が低いと飛び越えられちゃうよね。仕方ないよ。
――ソラしゃん!
「わきゃ!」
後方から瞬時に距離を詰めての右下からの振り上げを横っ飛びで回避!
「て、うお! こっちに来た!」
「ゆうちゃ、じゃま!」
ごすん! と、横っ飛びの勢いのまま、右肘が勇者の右腿側面にヒット。
「――っう!!??」
勇者リンバーグ、悶絶ダウン。
「うあ~。ソラちゃんの因子解放の肘打ちがクリーンヒットだね」
「いたちょ~」
――ソラしゃん、ねらったでちょ~。
いやいや、狙ってないよ! て、どうしてそんなに嬉しそうなの?
リンバーグさん、ごめんね。わざとじゃないからね。
「ソラリス様……素振りで尻餅ついてたのに……」
「模擬戦だと、まるで別人よね……」
はい。中身は入れ替わってます。