第73話:しょくじまなーって、なに? の、ひ!
昼食は、学園内にある食堂で食べる。
従者と護衛の同席も認められているため、6人席のテーブルはアリアちゃんとその従者と護衛、わたしとジェノさん、アヤネちゃんで席が埋まるはず……だけど、なぜか1席あいている。
それはなぜか……。
「ソラ様、はい、あ~ん」
「あ~ん」
ジェノさんに抱かれ、膝の上でご飯を食べさせてもらっているからです。
そんな光景を、じっと見詰めてくるアリアちゃんの侍女さん。
名前はラチカといって、18歳になる伯爵家の3女だって。
王族に仕える人達は、基本的には貴族らしい。
「おねえちゃんは、あ~ん、してもらわないの?」
と、爆弾発言が飛び出し、ラチカさんがスプーンに掬ったスープをアリアちゃんに向けて。
「しませんわよ。3歳の頃から厳しくマナーを学びましたから」
ラチカさんのスプーンが方向転換。自分でパクリ。ちょっと悲しそう。
「マナーなんて気にして、ご飯が美味しいのかな? 一食でナイフとスプーンとフォークが何種類も置かれてビックリなんだけど」
「アヤネ様、それは順に出される料理によって、使う食器が決まっているからですわ」
「え~。うちは料理が違っても、フォークとスプーンは1つだよ」
「ね~」
「「ね~」」
ジェノさんとアヤネちゃんと微笑みあう。
うん、わたしは何も言うまい。実際、貴族のマナーなんてサッパリだしね。
と、そんな食事風景の中、わたしとジェノさんの対面、空いている席に見知らぬ生徒が座ってきた。
王族の席に乱入とは、いったい何事?
「ソラリス様、わたくしも、あーんしていいで」
「あぁん!? ソラ様にあーんは、私の特権」
「ジェノ様、素が出てましてよ」
「あら、ごめんあそばせ」
こえ~よ、ジェノさん! ほら! 女生徒さんが真っ青な顔になっちゃってる!
「ごめんなさい! 楽しそうだったので、ここが王族様の席だと忘れてました」
違うぞ~。ジェノさんの怒りポイントはそこじゃないぞ~。
「ジェノしゃん、ごはんは、たのちくだよ」
「そうですね、ソラ様」
「てことで~、えっと~……」
――このひと、だれ?
いや、わたしに聞かれても、知らない。
「ソラちゃん、この方は、サイリアナ・ファナスタシア侯爵令嬢ですわ」
「あい! しゃなすふぁしあしゃん」
誰だ?!
「しょこの、パン、あーん、ちて」
「あ、はい! あーん」
「あーん」
ぱく、もぐもぐ。
――ソラしゃん、おいちい?
あ、うん。て、左手の代わりか。
――しょ。ジェノしゃんのあーんは、あたちの。ちがうひとのあーんは、ソラしゃんのぶん。
そっか~。……わたしの分、圧倒的に少なくない? パン一口だけか~。
「ソラしゃん、おいちいって」
「よかったですわ! では、これにて失礼させていただきます」
と、サイリアナさんは去っていき、その先で女生徒から囲まれて……。
「うらやましいですわ」「明日からは、あーんの権利を賭けて、じゃんけんで決めましょう!」
と、なにやら勝手に決まったようだ。
「ふふ。ソラちゃんといると、楽しいことがおこりますわね」
「そうですね。ソラ様の最後の一口は、あの子達のために残しておいてあげましょう」
わたしの分は、一口だけって決まっちゃった。まあ、関係ないんだけど。
次の日から、食堂の裏で盛大なじゃんけん大会が繰り広げられ、勝ち残った人が、あーん、しに来るのが日常になった。
でも、最後まで残った数人と権利を得た人が、なぜか食事時間が無くなり、昼食を食べれないという不思議現象が起こるようになったとか。
マナーとか……いや……うん。何も言うまい。
――ソラしゃん! 450ぽいんちょ、こえてた!
すごーい!
――びっくりちて、おちっこ
今すぐトイレにいこう!
「ソラちゃん、ダメですわよ、抜け出しては」
――あ。
あ。
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