第71話:しょんなの、きいてなかったもん! の、ひ!
朝がきた~!
入学式を終えて、今日から正式な通学が始まる。
朝食後、鏡の前で制服に着替えて、椅子に座ってジェノさんに髪を整えてもらう。
「ソラ様、今日の髪型はどうしましょう?」
「えっとね……」
エリートの証、背中までの黒色ハーフマントを強調するならポニーかな?
――しょのままは?
剣術があるから纏めておいたほうがいいよ?
――う~ん。
「はい。出来ました。今日はツインテールですよ」
「えう!?」
ちょ! 聞いてきたんだから、わたしたちの意見を待って!
「リボンは何色にします?」
「しゅきにちて!」
「はい。エメラルドグリーンにしましょう! 可愛いですねソラ様」
ジェノさんが幸せそうならいいか。
「ソラリスや。忘れ物はないかの?」
「かばん、もったち~、なかにも、ちゃんといれた~。えへへ」
新しい教科書にノート。それだけで嬉しいね。
「さあ、行きましょ、ソラ様」
ジェノさんに手を引かれ、大きく一歩を踏み出し、その勢いで右肩に下げた大きく重い鞄が前方に振られ、前に踏み出した脚目掛けて振り子のように戻って……。
ガス!
「きゃうぅぅぅ!」
痛さで蹲る。
「ソラリスゥゥゥ!」
「ソラ様!」
「「ソラちゃん!」」
なんてこった。こうなるなんて予想してなかったよ。
ヒールですぐに回復したけど、この日から、ソラちゃんはジェノさんに抱かれ、鞄はアヤネちゃんが持って通学することになった。
過保護が急加速していく……。
「と、そんなことがありまして」
「なるほど。ですから、抱かれているのですね」
「もぉぉぉ! はじゅかちいから、いっちゃだめって、いったのに!」
お城の前でアリアちゃんと合流して、なぜ抱かれているのかを疑問に思ったらしく、聞いてきたから、ジェノさんが説明したらソラちゃんが拗ねた。
抱かれるのは、まあ、周りが全て過保護だから仕方ないけど、通学さえも歩けないとしたら、体力がなかなか育たないね。
「でも、従者が荷物を持つのは、普通でしてよ?」
王族や貴族ってそんなものか。
ソラちゃんが徒歩通学を希望したから、アリアちゃんも徒歩なんだけど、側には侍女さんと女性騎士さんの2人が居た。
確かに、アリアちゃんの荷物は侍女さんが持っている。
――ジェノしゃんは、じゅうちゃじゃないよ?
そうだね~。世話してくれてるけど、従者じゃないもんね。
――あたち、じぶんでもたないと!
うん。そう出来るように、力をつけないとね。鞄に負けないくらいには……。
王族と高位貴族は、従者と護衛を2人まで同行できるってことで、特待クラスの教室にジェノさんに抱かれたまま入った。
恥ずかしい……けど、仕方ない。
指定されている2席分が繋がった机の席に座らされ、左隣りを見ると、ばっちりアリアちゃんと同席だった。
教壇から真正面の最前列。どうやら王族専用の席らしい。
他の3人の生徒は後方の席に座っている。
「従者と護衛のかたは、授業中は待機室にて過ごしていただくことになってますわ。ジェノ様とアヤネ様をご案内してあげて」
「はい」
仰々しく、頭を下げる侍女さん。
「ソラ様をずっと見ていたかったですけど、また後ほど~」
「ソラちゃん、がんばれ~」
「がんばる!」
教室を出て行く2人と手を振り合う。
この差よ……。
で、入れ違いに入ってきた学園長である勇者。
「なにちにきた! ゆうちゃ!」
落ち着いて、ソラちゃん! ね? いい子だから。
「え? 俺が特待クラスの担任だからだが」
「どちて!」
「どうしてって、王族の、しかも2人の王女が居るクラスなんて、序列的に王弟である俺しか担任なんてできないだろ?」
「おねえちゃん……」
すがるような瞳でアリアちゃんを見詰めてみる。
できれば、担任のチェンジを。でないと、ソラちゃんをなだめるだけで、わたしの精神が磨り減っていくんですけど。
「ソラちゃん……残念ですけど、諦めましょう?」
「えうぅぅ」
ああ……。絶望の黒色で塗りつぶされていく~。