第70話:しゅなおな、きもちだもん! の、ひ!
このなんとも言えない雰囲気を変えるため、わたしはソラちゃんと主導権を交代した。
そして、息を大きく吸い込み。
「はじゅかちいでちょ!」
今のわたしとソラちゃんの心境を言葉にしてやった。
四天王さん達の大騒ぎで、わたしたちにだけ視線を集めてしまったからね。
「「「怒ってる?」」」
首を傾げる四天王。
あ~。そもそも入学式っていうものを分かってないな。
魔王国に学校なんてものは無かったから、当然だけど。
さて、そんな事情を6歳児が説明できるはずもなく……わたしだったらできるけどね? 何も知らないはずなのに、突然に説明しちゃったら、みんなが流石に怪しむでしょ?
――まかちぇて!
うん? ソラちゃんにアイデア浮かんだの?
――うかんだ~。
じゃ、任せた。
「おねえちゃん、どうちよ……」
アリアちゃんに投げるんか~い!
て、ああ、そうか。力強い味方が、手を繋いで隣に居たよ。
うるうると、滲んだ瞳でアリアちゃんを見上げると、視線を合わせて微笑んでくれた。
アリアちゃん、マジ天使。
「皆様……。最初からやり直しましょう」
うん。それが正解だ。
て、ことでね。
入学式の進行を説明された四天王さんたちは平謝り。
加えて、ソラちゃんの姿を見て騒いじゃったことをトレンティーさんに怒られて、貴賓席で縮こまって座ってる。
威圧感はどこへやら。コントのような展開に、会場は笑い声さえ聞こえたよ。
結局のところ、無知って恥ずかしいね!
――ね!
……ソラちゃん、頑張って学習してね?
――むじゅかちくなかったらね!
がんばろうよ~。
改めて、新入生が入場していく。
中からは、外まで響く拍手の音。
中を覗いていた教師が、こちらを向いた。いよいよアリアちゃんとの王族組の入場だ。
――きんちょうちてきた。
落ち着いて。歩いていくだけだから。
て、言っても無理そう。最初の静かだったものと違って、みんなから注目されたて、拍手まで送られるんだよね。
「大丈夫よ、ソラちゃん。堂々と行きましょう」
「あい」
きゅっと握られた手に暖かさを感じて、心が落ち着いていく。
これが、おねえちゃんの存在感か。
わたしは、中から語りかけてあげることしか出来ない。どれだけ、ソラちゃんの支えになってあげてるんだろう……。
――ソラしゃん、ありがちょ。
あ、うん。……さあ、行こう。
アリアちゃんと一緒に、中に入っていく。
さあ! 拍手が……。
「かわいい!」
「体が小さいから、制服も小さくて可愛すぎる!」
「同じ制服なのにね!」
拍手は?! 予想してたんと違う!
まあ……アクシデントは少しあったけど、無事に席に着いて、学園長で勇者の決まり文句のような挨拶を聞き、新入生が壇上に上がって、勇者から順番に名前を呼ばれて在校生に向かって一礼する。
アリアちゃんが優雅にカーテシーを決めて、いよいよ私たちの番。
一礼したあと、スピーチをして入学式は終了だ。
「史上最年少入学生、ソラリス王女殿下! 6歳!」
「あい!」
スカートの裾を両手で摘む仕草でだけで、膝を少し折って、綺麗なカーテシーを決めた。
オムツ丸出しじゃないぞ! 練習したもんね!
そして、ネコさんポシェットからスピーチを書いた紙を……て、きらきら金貨しか入ってないよ?
――わちゅれてきた……。
ええ~! わたしも確認してなかったけど……。
金貨を両手で持って、きょろきょろおどおど。
「ソラリスや! 今の素直な気持ちを言ったらいいんじゃよ!」
さすがパパだ! 入学できて嬉しいとか、ともだちをいっぱい作りたいとか、それを言えばいいんだよ。
そして、ソラちゃんは金貨を見詰め、パパをちらっと見て。
「パパ、だいしゅき!」
なんでやねぇぇぇん! 学園関係ないじゃん!