第69話:うれち、はじゅかち、にゅうがくしき! の、ひ!
入学式が行われる日の朝。
この入学式には、新入生の保護者も参列することになっているため、パパに抱かれて学園に向かっている。
と、ここまでなら、普通の入学式の風景だって思うでしょ?
問題は、親、ではなく、保護者という言い回し。
後ろに付いて来るのは、精霊女王トレンティーさん、骸骨騎士ホーネ・ボーンさん、竜人リュードさん、狼人ウルガさん、わたしの腕の中で抱かれているスラじいさん(分体)。
魔王国の影の支配者と四天王が揃い踏みだ。
さらに、残念世話係りエルフのジェノさんと、剣鬼の狐人族アヤネちゃん。
全員、漏れなくソラちゃんの保護者である。
屋敷を出てから徒歩3分。
パパに抱かれて視界が高くなった先に、城壁門の前に居るアリアちゃんを見つけた。
「おねえちゃ~ん!」
「ソラちゃん! まってまし……てぇぇぇぇ!」
あら、大きく目を見開いて、そんな奇声を上げたら、可愛い王女が台無しでしてよ?
――どちて、しょんなにおどろくのかな?
どしてだろうね? 護衛の騎士さん達も驚いて腰を抜かしてるし。
そんなことでは、護衛失格ですよ?
「どうして魔王国の首脳陣が勢揃いしてますの!?」
「「「保護者だから」」」
「入学案内に書かれている保護者とは、近親者、つまり、ご両親だけですわ!」
あ、やっぱり? なんとなくそう思ってたんだよね。
「かかか! 姫様の晴れ姿を……」
「お嬢のスピーチを……」
「楽しみにしてたんだがな」
『ぷるしょぼ~ん』
崩れ落ち、抱いているスラじいさんの弾力ある体は、みるみる萎んでいく。
「みんな、これないの?」
「ああ……ソラちゃん、そんな悲しい顔しないで! えっと……トレンティー様は母として、ジェノ様はそのまま従者、アヤネ様も護衛で……」
悩んでいるアリアちゃんの前に、1人の騎士さんが歩み出た。
「アリア王女殿下、ご発言よろしいでしょうか?」
「許します」
「魔王国の方々は、貴賓としてお招きしてはいかがでしょう?」
「そうよ! それよ! 記念すべき交流の第一歩として、ソラちゃんを学園に招いたんですもの! それなのに魔王国側から貴賓様をご招待しないなんて、おかしいですわ!」
「学園に先触れを飛ばします!」
騎士さんが3人、学園へ向かって駆けていく。
「お手数かけてすまんの~」
「いえ……みなさま、ソラちゃんを愛されてますのね」
「「「もちろん」」」
過保護すぎるけどね。
パパの両脇にわたしとアリアちゃんが抱かれて学園に到着した。
抱かれている中で、アリアちゃんと手を繋いでたんだけど、これって、手を繋いで一緒に通学っていう約束を果たしたことになるんだろうか?
まあ、アリアちゃんの馬車だとみんな乗れないしね。特に巨体なパパとリュードさんが。
講堂前に新入生は全員集合した。
――アリアおねえちゃんと、てをつないで、しゃいごににゅうじょう?
だね。声をかけられたら、扉の中にいこうね。
――あい。
やっぱり、王族は特別扱いらしいね。
「では、並んだ順から入場を」
新入生が中に入っていくのを見送る。
はて? 物音1つしない講堂内に違和感が……。
「なんだか、中が静かではありません?」
「しょなの?」
あ~。違和感の正体はそれか~。
――しょれ?
普通は拍手とか聞こえてきてもいいと思うけど、静かなんだよね。
「えっと……」
中を覗いていた教師の人も、困惑してるし。
「で、では、ご入場ください」
「はい」
「あい!」
手を繋いで、入り口前の階段を上って、中が見える扉の前に来たとき、どうして静まり返っていたのか理解した。
正面の壇上の右側には、王国側のお偉いさん達が俯き加減で座り、左側には、竜人! 骸骨! 狼人! スライム! が、踏ん反り返って座ってる。……威圧感半端ねぇぇぇ!
拍手で迎えるべき在校生の人達も、顔を色を青くして俯いちゃってるよ!
「お! 姫~!」
「やはり、お嬢が1番かわいいの!」
「嬢ちゃん! そこの椅子に座るんだってよ!」
魔王国側だけ元気いっぱいだな!
――はじゅかちいね!
貴賓席に座らせたのは誰だぁぁぁぁ!