第62話:あれは、おいちい、でざーと。の、ひ!
最終試験は魔法だ。
勇者から引き継いだ魔法の試験官の後ろを付いていき、グラウンドから敷地の隅にある魔法練習場に移動する。
先を行くお兄ちゃん、お姉ちゃん達から、どんどん離されていく。
99センチの身長、すらっと細いけど、若干短い足から出される歩幅は狭く、とてもじゃないけど追いつくのは無理。
そんな状況下で、ご立腹の負けず嫌いな子が1人……。
――もぉぉぉ! いんちかいほう、ちよ!
ちょっと待て。先頭を歩きたいだけでパパの因子を解放しちゃダメ。
て、諭したら、ピタッと歩きを止めて、青い空を見上げる。
その視界は、あっという間にぼやけてきて……。
「うわぁぁぁん!」
突然泣き出したソラちゃんに、何事かとみんなが振り向く。
剣術で圧倒的強さを見せ付けたソラちゃんが、まさか追いつけないって理由だけで大泣きするとは、みんな思うまい。
ちょっとだけ、わたしもビックリだ。
さて、パパ達は先に魔法の試験場に移動して、ソラちゃん用の障壁を張りに行ってるし、どうしよう?
「ソラちゃん、どうしたの? 泣き止みましょうね」
アリアちゃんが抱き締めてくれた。
「おいちゅけ……ひっく……おいてっちゃ、やなの……」
言い直しませんでした?
これ、あれだな。勝ちたいから、甘えたいになったな。
「お手手繋いで、お姉ちゃんと行きましょう」
「うん、ちゅなぐ……」
アリアちゃんと手を繋いで歩きだすと、他のみんなもソラちゃんの速度に合わせて、ゆっくりな移動になった。
ソラちゃんのなきおと……魅力に、みんなメロメロだな。
「この魔法試験では、最初に魔力値を測ってもらう」
台座に乗せられた水晶が用意されていた。
その水晶に手を触れると、魔力が数字として浮き出るらしい。
「あたち!」
ちょっと待て! 最初にやっちゃダメだ!
――もぉぉぉ! どちて!
こんな興奮状態でやったら、属性を調べたときみたいに、とんでもないことになるに決まってる。
それを説明してソラちゃんが納得するかだが。
あれだ、最後にやって、みんなを驚かしちゃおう。
――むふふ。しょだね!
「あたち、しゃいごでいいよ」
「う、うん? じゃあ、自信のあるものからやってもらおうか」
「では! 賢者の弟子である俺からいかせてもらおう!」
と、少し小太りな少年が名乗り出る。
貴族の親が金で賢者を雇って教育を受けたらしい。
弟子じゃなくて、家庭教師じゃね?
「ほう、これは凄い。ブーラスは10歳にして魔力は900だ」
「「「おおお!」」」
――しゅごいの?
さあ? 人間の魔力なんて分かんないね。
「次はわたくし、アリアがいかせてもらいますわ」
お! アリアちゃんは魔法が得意って言ってたからね。
「アリア王女……7歳にして魔力は1200! さすがですな!」
「それほどでもないですわ」
優雅にお辞儀をして戻ってくる。
どうやら、最高はアリアちゃんの1200で、次に900。他は600~200程度だった。
「あたちのばん!」
最後に、ソラちゃんが水晶に手を触れると、水晶が光り輝いて、1,000,000を超えてもまだ数字は増え続けて、そして、水晶が割れて粉々になった。
「ソラリス王女……測定不能……」
「「「……」」」
――ありぇ? おどろかないね?
いや、驚きすぎて、魂が抜けてるんだと思うよ?
やっぱりあれか? マジックアップルを毎日食べ続けている結果か?
――おいちいもんね!
そうだね……。




