第61話:アヤネちゃんも、やりしゅぎた! の、ひ!
「はっはっは! 遊びか。遊びで武器破壊をして、相手の戦意を折るとは、ソラリスは凄いの~」
「あたち、しゅごい!」
頭を撫でられて、どうだ! と胸を張る。
実際は戦意を折るどころか、武器を破壊されて胴を切り離されかけて、放心状態になってるだけのような気がする。
「こちらに居る子達が、ソラリスの学友になるのかの? ソラリスをよろしくの」
「「「はい!」」」
パパの巨体に怖気づくことなく、元気な返事を返してくれる。
いや、違うか。聖女の加護により、悪意や害意は打ち消されてる。
そんな思想がないから、パパを見ても恐怖も何も湧いてこないんだ。相手に対して、悪意や害意を持ってるから、恐怖を感じる……と思う。
――むじゅかちい、はなち、やめよ?
あ、はい。
「で、試験は終わったのかの?」
「いえ、まだですわ。グランゾ様」
勇者、立ったまま気絶。進行不能。
ソラちゃん、やりすぎ。
――えへへ。
「よし! 俺が相手になってやろうかの!」
と、言って、抱いていたわたしを地に下ろした瞬間、みんなが持っていた木剣が粉々に砕け散った。
「ど、どういうことじゃ?」
「あ! グランゾ様! 聖女の加護ですよ!」
と、アヤネちゃんが言う。
聖女の加護。あらゆる攻撃を無効化。未然に防ぐ。武器も、敵対思想までも粉々に打ち消して……。
試験で相手をするだけでもダメなのか……。最強じゃね?
――パパはしゅごいね。
う、うん。……うん? この場合、そんな最強の加護を与えちゃったソラちゃんが凄いんじゃない?
――ちゅまり、あたち、さいきょう!
理性であるわたしにとって、感情のソラちゃんは最恐、あるいは最狂か……。だまっとこ。
「ふむ。アヤネ、相手をしてやるんじゃ」
「え~? この人達、弱そうですよ? 相手になるかな?」
ちょ! なに煽ってるの、アヤネちゃん!
――やっちゃえ!
こわ! 魔王国の女子こわ!
「聞き捨てならんな! 魔王国の戦士とはいえ、10歳やそこらの女子に、12歳の俺が相手にならないはずないだろ!」
と、金髪オールバックのイケメンさんが言っておりますが?
「ぷ! 6歳から入学資格ある学園に12歳で入試を受けに来たお子様が何言ってんの?」
「ぐ!」
イケメンさん、顔真っ赤。
「悔しかったら、かかってきなさい」
「うおぉぉぉ!」
あ、これあれだ。アヤネちゃんって、剣を持つと性格が変わるタイプ?
普段はキツネ耳にふさふさと膨らんだ尻尾が可愛いんだけどね。
で、勝負はっていうと、突っ込んで来た男の子の剣が振り上げられた瞬間、アヤネちゃんの右腕がブレて見えたと思ったら、男の子が地に大の字で倒れてた。
ま、考えてみたら、お家で剣の先生とお遊戯程度の練習をしている貴族と、森でモンスター相手に実戦を幾度とこなして、左腕をなくすほどの激闘を乗り越えてきた少女。
どっちが強いかなんて、比べるほうがおかしい。
「ありぇ? ちけんって、アヤネちゃん、こうげき、ちちゃだめでちょ?」
「「「……あ」」」
そういえばそうでした。
――ゆうちゃ、おこしゅ?
そだね。このままじゃ試験できないし。
てことで、トコトコと立って気絶したままの勇者に近づいていって、脛を一蹴り。
「ゆうちゃ!」
「ぐお!」
痛さで復活。
「本気を出さないでくれ! 手加減して!」
すごい怯えようだけど、遊びだったらしいよ?
「「「……」」」
「叔父様……」
ごめんな~人類の子供たち。勇者のイメージ壊れちゃったよね。