第56話:よりみち! の、ひ!
入試1週間前。
今日は学園に入学願書を出しに行く日。
アヤネちゃんと2人で、街を探索しながら学園に向かうことになった。
「ソラリス、忘れ物はないかの?」
「ないよ~」
肩に下げたネコ顔の可愛いポシェットの中に願書も入れたし、ハンカチも入ってる。
――なんかいも、かくにんちたもんね~。
ね~。
「じゃ、いこっか、ソラちゃん」
「あい!」
手を繋いで玄関を出る。
学園までは徒歩20分。この屋敷からお城を挟んだ反対側にあるらしい。
門を出ると、周りには白い壁を基準とした綺麗な建物がいくつも建っているのが見えた。
貴族街というだけあって、どの屋敷にも庭があって、建物は大きい。
「学園ってどこにあるんだろうね?」
「たぶん、こっち!」
門を出て真っ直ぐ伸びた道をアヤネちゃんの手を引いて行く。
て、ちょっと待て。多分で行き先を決めるんじゃない!
ソラちゃん、お城の向こう側だから、左に行かないと。
――しょなの?
うん。向こう側にある貴族街と市民街の境目にあるって言ってたよ。
「やっぱりこっち!」
「ふふ。探検しながら学園を目指すぞ~」
「お~!」
今日中に辿り着けるのか不安だ。
城壁に沿って歩くと、大きな門が見えてきた。
門の両側には、門番として白い鎧に身を包んだ騎士がたっている。
「でっかいね」
「そうだね。グランゾ様のお城って、城壁とかなかったからね」
門を見上げながら騎士のほうに近づいていく。
「アリアおねえちゃん、なかにいるの?」
「は? えっと……白銀の髪の女の子と、獣人の少女……」
「おい! お隣に引っ越してきたソラリス王女殿下だ!」
すんげ~身分で呼ばれた。体中にジンマシンが出そう。
ていうか、なぜにアリアちゃん? 学園は?
アリアちゃんとは、引っ越してきた翌日に会ったばかりでしょ?
――いしょがちいって、しゅぐかえっちゃったもん。
まあね。挨拶に来てくれたんだけど、遊べなかったからね。
「お呼びしますので、おまちくださ」
「馬鹿! ソラリス王女を外で待たせるんじゃない! ご案内いたします。こちらへどうぞ」
あ、いえ、お構いなく。
て、すでに騎士さんの足に抱きついちゃってるよ。
「どうしてお前が懐かれてるんだ? 後で鎧を着たまま筋トレな」
「ちょ!」
ご迷惑をおかけして申し訳ない。
嫉妬のとばっちりを受けた人、ごめんね。
騎士さんに城内への入り口まで連れてこられて、そこからは執事さんみたいな人に引き継がれて、客間へと案内された。
「ソラちゃん、この部屋豪華すぎて落ち着かないね」
と、部屋中を見て回るアヤネちゃんの尻尾が勢いよく振られている。
興奮状態で無意識なんだろうけど、その揺れる尻尾に今にもソラちゃんがギュって掴みかからないか、わたしはそっちのほうが落ち着かない。
「ソラちゃん!」
「アリアおねえちゃん!」
客間にアリアちゃんが入ってきて、尻尾に飛び掛りそうになって、腰を浮かしかけたソラちゃんの標的がアリアちゃんに変わった。
ガシッとアリアちゃんの首に両手で抱きついて、両足を使ってしがみつく。
もちろん、7歳の女の子が支えられるはずもなく、2人でこけちゃうんだけどね。
ごめんね。ソラちゃんの嬉しさの感情を抑えられません。
この後、アヤネちゃんに本を読んでもらったり、お茶とお菓子で小規模なお茶会をしたり(もちろん、マナーなんて知ったこっちゃない)。
室内でゆったりした時間を過ごし、外は夕刻のオレンジ色に染まりつつある。
アヤネちゃんは、そろそろお暇するって、侍女さんに挨拶をしている。
「そういえば、そのネコちゃんのポシェット、可愛いわね」
「でちょ! いろいろ、はいってるの!」
……あれ? ポシェット? なんか、忘れてるような?
「中に何が入ってるの?」
「えっとね……」
最初に手に取ったのは、何かの紙切れ……あ!?
――あ!? ソラしゃん!
「がんちょ!」
忘れてたのは、これだぁぁぁ!
「え? 入学願書? 受付は今日が最終日で、えっと……まだ間に合うわ! 早馬を! 学園に伝令! 締め切りを待ってもらって!」
「ソラちゃん!」
「アヤネちゃん! だっこ!」
抱きかかえられ、急いで城門へ。
結果、馬車を出してもらって、無事に願書を出しましたよ。
――よりみち、ちちゃったね。
うん……。家をでてすぐの、盛大な寄り道だったけどね!