第55話:しゅごかったから、まねちた! の、ひ!
「パパ、これ、どこ?」
「それはこっちじゃな」
大荷物を両手で抱えるように持って、荷物整理をしているジェノさんの所へと歩いていく。
「あら、ソラ様、ありがとうございます」
「えへへ」
その荷物を背伸びして渡すと、ジェノさんは片手で受け取った。
見た目4歳児だから、ちょっとした荷物でも大荷物になるんだよね。
――ゆうちゃ、ゆるしぇないね。
まあね。勇者が奇襲してこなかったら、成長が止まるのはもうちょっと後だったかもだしね。
でもね……身体的な成長は止まっても、精神的には成長できるはずなんだよね。
なのに、どうしてソラちゃんはあの時のままなんだろう?
「つかれちゃったから、おしょとであしょんでくる!」
「ちょ! ソラ様! ご自分の部屋の準備なんだから、ちゃんと最後まで」
「あしょぶの!」
うん、まあ、諦めてます。でも、学園に通い始めたら、変わってくれるかもね。
ちょっと休憩という理由で逃げ出して、開け放たれた玄関から外へ飛び出していく。
凄く広い庭を見回していると、花壇のところに居るトレンティーさんとアヤネちゃんを見つけた。
「なに、ちてるの?」
「庭木を作ってるのよ」
と、言いながらトレンティーさんが腕を振ると、何もなかった地面から一本の木が生えてきた。
「ソラちゃん、見ててね」
アヤネちゃんが微笑みながら、鞘から素早く剣を抜いて振り抜くと、生えたばかりで枝が伸び放題だった木が、枝が切り払われて、見栄えのいい庭木になった。
「しゅご~い!」
本当に凄いね! 一振りに見えたけど、実際には数回の斬撃がだされてたみたい。
――ソラしゃん、しょれできる?
どうだろ? パパの因子を解放して、身体能力を高めて、クイックで腕の振りを早めたらいけるかな?
――やってみよ!
剣がないよ?
「アヤネちゃん、しょの、けん、かちて」
「え? ソラちゃんの体には大きすぎて危ないよ?」
「ソラしゃんだったら、だいじょぶ!」
「「ん?」」
わたしのこと、言っちゃダメだってば!
「あ、そうだ。これ、ソラちゃんにプレゼントよ」
「あい?」
トレンティーさんが、何かの枝を手渡してきて、それを受け取る。
なんだろ? 手に持った枝がほんのりと光ってるけど。
「世界樹の枝よ。魔力を込めながら、使いたいものをイメージすると、その形になってくれるわ」
「しゅごい! ありがと!」
――ソラしゃん! こうたい!
あ~、はいはい。剣はわたしだね。
「つぎ、どれ、きる?」
「じゃ~この木ね」
言われた木に体を向けて枝に魔力を込めると、体の大きさに合わせた剣の形になった。
長さも重さもちょうどいい。
じゃ~、いくよ~。
――あい! いんち、かいほ~! かじぇのまりょく、こねこね!
「クイック」
鞘がないから、そのまま剣を腰位置で構えて、振りぬく! そのまま流れで縦、横、斜めと何度も剣を振るう。
クイックの効果でアヤネちゃんのスピードに負けてないはず!
――あい! じぇったい、まけてないね!
放った斬撃は、目の前の太い木の幹を切り刻んで、木を倒壊させた。
「アヤネちゃんに、まけてないもんね!」
「「……」」
あれ? なんか怒ってない?
――どちて、おこってるんだろね?
「ねえ、ソラちゃん」
「あ……あい?」
「わたしとアヤネちゃんはね、庭木を作ってたんだけど」
「枝を切り揃えるんだと思ってたんだけど、いつから私とソラちゃんとの勝負になったのかなぁ?」
「……あ」
「まあ、背が低いから、枝に剣が届かないって分かってたけど?」
そうでした。元から無理でしたね。
――ソラしゃんのばかぁぁぁ!
えぇぇぇ! ソラちゃんもノリノリだったじゃん! とりあえず、謝ろう。
「ごめんなしゃい……うわぁぁぁん!」