第54話:しゃぷらいじゅ! の、ひ!
今回、ちょっと長めになっちゃった。
学園入試に向けて、王都へ出発の日がきた。
入試といっても、私たちの場合、入学は決まっているから、クラス分けのための入試かな。
この入試で向こうに行ったら、そのまま王国が用意した屋敷に住むことになる。
ここから王都まで14日かかる。お城から学園まで通学なんて無理だよね。
で、出発前なんだけど。お城の正面広場には、なにやら大勢の人達が整列してて……。
「かかか! 死霊騎士ホーネが部下、スケルトンナイト総勢100騎、姫様の護衛のため同行しますよ!」
「竜人リュードが部下、ワイバーン100匹、空からの脅威は打ち砕いてくれようぞ!」
「獣人族ウルガが部下、精鋭100士、先行して道中の完全確保は万全にするぜ!」
学園に行くだけだよね? これって軍隊規模じゃないかな? 戦争でもするの?
「グランゾ!」
あ、森に道を作ってたトレンティーさんが凄い勢いで飛んで来たぞ。
「おお! トレンティーよ! そなたも妖精を護衛に」
「この大馬鹿!」
急降下してきたトレンティーさんの膝が。
「ぐぼぉ!」
見上げてたパパの顔面に食い込んだ。
「護衛はジェノとアヤネだけでいいって言っておいたでしょ! あなたたち、早く解散しなさい!」
「「「ひぃぃぃ!」」」
屈強な戦士たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていったよ!
――しゅごいね……。
うん。魔王国最強はトレンティーさんだな。
そんなトレンティーさんの横には、キツネ耳とキツネのフサフサ尻尾が特徴的な少女が立っていた。
「やっほ~。ソラちゃん、お久しぶり!」
「アヤネしゃん!」
バッと駆け出していって、両手を上げて抱っこしてのポーズをとると、アヤネちゃんは屈んで抱き上げてくれた。
「ふふ、ソラちゃんは小さいままだね」
「しょんなことないもん」
嘘はよくありません。99で止まっちゃってますよ。
それに比べて、アヤネちゃんは順調に成長しているね。
もうすぐ10歳で、すでに身長差が40センチある。
「これから、護衛騎士として一緒に行くからね」
「あい!」
「では、ソラ様。そろそろ馬車に乗り込んでください」
アヤネちゃんに地面に降ろされ、ジェノさんに手を引かれる。
「ジェノ、アヤネ、頼んだぞ」
「「はい」」
あれ? パパは一緒に来ないのかな? ……て、当たり前か。魔王国の統治があるしね。
――パパ、いっちょじゃないの?
うん。一緒には行けないね。ここでいろいろやることあるから。でも、アヤネちゃんとジェノさんが側にずっと居てくれるし。
「いやぁぁぁ! パパも! いっちょ! うわぁぁぁん!」
説得失敗。
「ジェノ! 早く行くんじゃ!」
「はい!」
「パパァァァ! パパァァァ! びえぇぇぇん!」
パパと離れて暮らさないといけないっていうのは、アリアちゃんとの別れとは段違いな悲しさだった。
14日かけての旅路の中で、ソラちゃんが元気をもどすことなく、食欲も無くなっていって、半分の道程を過ぎてから、仕方なくわたしが主導権を取って、衰弱しないように食べるものは食べて、ソラちゃんが塞ぎ込んじゃった以外は何事もなく、王都へと到着した。
王都にある貴族街。
王城のすぐ側にある屋敷が、学園に通う間の用意されて住まいだ。
門付き、広大な前庭。3階建て立派な屋敷。
そんな遠くからでも分かる、立派な屋敷への門を潜ったところで、違和感に気付いた。
門の外からみた屋敷と、門の中に入ってから見た屋敷のサイズが、明らかにおかしい。
門の中に入ると、屋敷が一回り大きくなってる。
これって……人間のサイズじゃなくて、まるでパパの巨体に合わせたような……。
前庭の整備された石畳の道をゆっくりと進み、玄関の前で馬車から降りた。
――ソラしゃん……かえろ。おうちに、かえろ……。
まだ、言ってるの? アリアちゃんと一緒に学園に行くって約束したでしょ。
――だって……。
なんとかソラちゃんを説得しようとしていると、玄関の扉が開いて……。
「ソラリスゥゥゥ! 会いたかったよぉぉぉ!」
「パパ! パパだぁ!」
主導権があっという間に奪われて、パパの胸に飛び込んでいく。
「どちて、パパがいるの?!」
「一緒にここで住むためじゃよ!」
くるくる回って喜びを爆発させているパパの側には、トレンティーさんも居た。
「ジェノ、聞いて! グランゾったらね、ソラちゃんを見送ったその夜に大泣きしちゃって、それから毎晩、毎食、ソラちゃんが居ないって泣き喚いて、仕方なく、この屋敷に空間魔法をかけて、グランゾの巨体でも生活できるようにしたのよ」
ははは! 親バカだな! でも、パパ、親バカでありがと!