第46話:しゅいじゃく? の、ひ!
花畑で観察日記を付け始めてから、ソラちゃんの勉強は一段階進み、絵本の読み聞かせから文字の書き取りになった。
普段は集中力のなさが課題のソラちゃんも、日記に書かれた自分の文字とパパの文字が、あまりに違いすぎていることにショックを受けて、真面目に取り組んでいる。
「凄く上手に書けるようになりましたね」
「がんばった!」
ジェノさんが書いた見本を真似て、ノートにそれを書き写す。
読めるようにはなったね。
――まだ、パパのほうが、きれい。
そうだね~。
パパってば、あの巨体で武闘派だって思ってたら、意外と字が綺麗なんだよね。
執務で書類を書くことが多いからなんだろうけど。
「じゃ~、今度は私が絵本を読むので、それを書いてくださいね」
「むふふ。かんたん」
その自信はどこから来るんだ?
「むかし、むかし」
「む……か……し……」
手本を見ながら、字を探して書く。
「む……か……し……」
手本を見ながら……て、おい、ちょっと待て。
同じ言葉をさっき書いたばっかりで、どうして手本から文字を探しているんだ?
同じなんだから、繰り返して書けばいいじゃん。
――もぉぉぉ! きがちる! ちじゅかにちて!
あ、はい。ごめんなさい。
すらすらと文字を書けるようになるには、どれだけかかるんだろう?
「ソラ様。絵本を読みながら、手の平にその文字を書いて覚えたらいいですよ」
「ちょっか! えっと……むかし――あみゅ!」
体がビクン! と跳ねて、身をよじる。
「てのひら、くしゅぐったかった!」
「あみゅ! って、かわい……あぶふ!」
鼻血を噴き出して昏倒しちゃったよ!
ジェノさん、血の出しすぎでいつか衰弱死するんじゃないかな……。
お昼からは、花畑でパパと花の世話をしながら、日記を書くのが日課になった。
「パパ! つぼみ、おおきくなった!」
「本当じゃな。明日には花が開きそうじゃ」
日記に、パパにペンを持つ手を握ってもらって、文字を書く。
つぼみが、おおきくなった。と。
昨日もまったく同じこと書いてたんだけどね。
成長日記なんて、毎日書いてたら、ほとんど同じになるよね。
まあ、種を植えてから2週間。明日には、花が咲いたって書けそうかな?
最後に水を撒いていると、ウルガさんが走り込んできた。
「グランゾ! 森を抜けたところにある人族の王国の使者が来たぞ!」
「なに? ここまで来たのか?」
「いや、俺の街に待たせてある」
馬車で2日のところに待たせてるんですか? 遠すぎません?
「ゆうちゃ!」
あの、ソラさん? 右腕から放電現象起こってますけど? 勇者じゃなくて、使者だから。落ち着いて?
「森の中でモンスターに囲まれてるところを保護して連れて来たんだけどな、飯として猪を狩ってそのまま与えたんだが、なぜか食わなくて衰弱していってるぞ」
「ふむ? なぜ食わんのじゃ?」
解体が出来ないだけじゃないかな~? 王国の使者ってことは貴族でしょ? 護衛も騎士だろうし、身分の高い人達は解体なんて出来ないよね?
せめて解体してあげて。
「ふむ。急いで謁見の準備をしよう」
「じゃ、連れて来るぞ。往復で5日ってとこだな」
「わかった」
ウルガさん、今連れてきたらよかったのに。
使者さん達、パパに会う前に死にそうなんですけど。