第35話:まけじゃないもん! の、ひ!
3日目の朝。
オマルの上で用を済ませた後、ジェノさんに隅々まで布で拭かれた。
そして、オムツを履かされる。
……屈辱である。
ワンピースを着込み、ウエストのリボンをキュッと結んでもらって、姿見の鏡の前でポーズを取る。
腰まで伸びたサラサラでツヤツヤなストレートヘアは、今日も朝日を浴びて白銀に輝いている。
きゅっきゅっきゅなボディは……今は何も言うまい。まだまだこれからだ。
「ソラ様、今日も可愛いです」
「でちょ~」
我ながら美女である。いや、まだ美幼女か。これから体が成長して、淑女として……。
――はやくパパのとこ、いこ!
そだね~。
淑女……品位があって、おしとやか……感情ソラちゃんが成長してくれないと無理じゃね?
いまのところ、真逆に成長中!
――えっへん!
うん。素直でいい子に育ってくれればいいよ。
「パパ! おしょと、いこ!」
「おお! よしよし。今日はアヤネもお仕事だからな! ずっと一緒に居てやるぞ!」
「ふふ。よかったですね、グランゾ様」
「ああ。昨日はアヤネのところにばっかり居るから、パパは寂しくて不貞寝で1日過ぎちゃったからの」
パパ、それもう病気だよ。
で、パパのズボンにしがみついて、いざ外へ。
歩きながら周りをきょろきょろと見て、パパを見上げる。
「おなじ、いっぱいで、まよっちゃうね」
「これな~。同じ建物ばかりじゃろ? パパが全部作ったんじゃよ」
「どちて?」
「400年前にの、人間共が、人間以外は敵だ、滅ぼせって言い出しての」
そういえば、私たち以外に人間は居ないな。もしかして……逆に滅ぼしちゃったとか?
「それに怒ったトレンティーと2人で、世界樹を中心として山を作って囲んで、深い森を作って、人間以外の種族をその中に保護したんじゃよ。で、住むところが必要じゃろ?」
「懐かしいですね~。グランゾ様、たしか、いろんな建物をデザインするのは面倒だって、まとめて同じものを作っちゃったんですよね~」
要するに、手抜きか。いや、魔法で山を作っちゃったりとかは凄いけどね。
これで、人間と敵対してるってことは分かったぞ。
いや、人間が一方的にか。だって、パパは人間のわたしにデレデレだしね。
「パパの、はなち、むじゅかちくて、わかんない」
ですよね~。
「ははは! だったら、城に帰ったら分かるようになるまで勉強しような」
「あ……ぁい」
うわ~。感情が絶望で染まってく~。
真なる敵は、人間ではない! 目の前に威圧的に存在しているトイレのドアノブだ!
――きょうこしょ、かつね!
おう!
「ジェノしゃ~ん」
卑怯ではない。1人で勝とうとしてたのが間違いだったの! 手伝ってもらったらよかったんだよね。
「はい、今開けます」
「だめ!」
開けてくれようとしてたのを、ちがうちがうと、首を横に振って止める。
「あたち、あけるの!」
そう、自分の手で開けないと、勝ったことにならないんだよ!
「ふふふ。じゃ~抱き上げますよ~」
「あい!」
気合は十分だ!
「はい、掴んだら、右に回して」
「うん……ちょ」
「はい、手前に引いて」
「よ……ちょ」
ドアが、キィィィと、音を立てて開いた!
勝利だ! やった~!
――やった!
「ここからは1人で大丈夫ですか?」
「だいじょぶ!」
バタンとドアを閉めて、トイレと向き合う。
洋式トイレか……オマルとは違って、強敵だな……。
まずは、オムツを下ろして~。
――あい!
スカートを腰まで撒くって~椅子に座るように、少し股を広げて~。
――あい!
勢いをつけて、飛び乗るように座ったら。
スポ! と、小さいお尻が腰くらいまで便器に落ちて嵌った!
便座おろすの忘れてた!
すっぽりしっかり嵌って、抜け出せない!
「うわぁぁぁん!」
だよね~。泣くよね~。
「ソラ様!?」
あ、待って! いま、大股開いて大変恥ずかしい格好なんですよ!
願い虚しく、ジェノさんがドアを開けて入ってきて。
じょぉぉぉ!
勢い良く出た噴水が、ジェノさんのちょっと良い服を濡らして。
ジェノさんが無表情になっていって、瞳の光が消えていく……。
この日、わたし達ソラちゃんとジェノさんチームは、ドアノブと便器チームに、完全敗北した。
「びえぇぇぇん!」