第28話:たのちいね! の、ひ!
ゆっくりと馬車は進み、平原に出た。
街道はここまでのようで、先には土の道が伸びていた。
もちろん、整備されているはずもなく、結構な頻度で馬車が弾む。
ソラちゃんも、その反動でパパに抱っこされている体勢で跳ねちゃうぞ。
パパは自分の重量で座席にしっかりと固定されていて、いっさい弾まないんだけどね。
「パパ! またぴょんってなった!」
「ははは! ソラリスは軽いからの」
酔い止めの薬は持続性が高いみたいで、ソラちゃんは元気いっぱいだ!
「あの、グランゾ様。言い辛いのですが、ソラ様がグランゾ様の上で跳ねてる構図はいろいろとヤバイので……」
……。ジェノさん、考えすぎですよ? 親子でそんな……4歳児ですよ?
「ですから! 私にもソラ様を抱っこさせてください!」
おい! そっちが真の目的か!
「ソラリスはどっちがいい?」
「え~?」
――ソラしゃん、どうしゅる?
う~ん? ジェノさんに抱っこされたら、正面に座ってるパパの姿がずっと見れるね。
「ジェノしゃんのほう、いく!」
パパからジェノさんに移って、抱っこされた。
ジェノさんの太腿は、オムツ越しでも分かる柔らかさ。
移って正解だったかも。
「パパ~」
パパに向かって手を振り。
「ソラリス~」
パパも手を振りかえす。
なんだこの空間は。馬車の中なのにお花畑が見えるぞ。
「ああ! ソラ様が跳ねるたびに柔らかな髪が舞って、顔にかかって気持ちいい……」
うわぁぁぁ! 選択間違った!
ジェノさんの周りに百合の花が咲き乱れてる!
ガン! と、馬車が大きく跳ねて。
ゴン! と、後頭部に強い衝撃が!
「ゴフ!」
「いたぁぁい!」
頭を押さえた瞬間、ドサッと、ジェノさんが顎を押さえて座席に倒れこんだ。
ソラちゃんの頭突きでノックアウト。
「……馬車を止めて休憩にしようかの」
旅、一時中断。
ジェノさんが目を覚まして、そのままお昼ご飯にしようってことになった。
「ソラ様。頭は大丈夫ですか?」
「いたかったけど、ジェノしゃんは、もっといたかった?」
「ああ! ソラ様はなんとお優しい!」
自業自得なような気がする。
「では、シートを敷きますね」
「おてつだいしゅる~!」
「はい。一緒に広げましょう」
折り畳まれたシートをまずは横に広げて、2つ折になったシートの上部分を持って、向こう側へ……。
「あれ?」
はい! シートの上を歩いて広げようとして、手に持ったシート部分を踏んじゃいましたね!
反対側から後ろ歩きで広げないと。
――あ、しょっか。
「こっちから!」
「お、そこに気付いたか。えらいぞ、ソラリス」
「えへへ」
で、後ろ向きでトコトコ……。
ドスン! て、こけた。
あ~、青空が見える~。そして、天に向かって上げられた大の字に開いた細い足と……いやん! オムツ丸見え!
いや、普通の人でも後ろ歩きって難しいよね~。
「大丈夫か!」
「ソラ様!」
あ、泣いちゃうか?
「ふふふ。たのちいね!」
「ああ! 楽しいな!」
ソラちゃんの心は、青空みたいに澄み渡ってた。
――ソラしゃん、あとでしぇっきょう!
……どして?