第27話:やくわりぶんたん! の、ひ!
どどど! と、馬の足音は明らかに違う音をたてて、馬車が走る。
「はやい、はや~い!」
城の前の並木道の景色が流れていく。
初体験のスピードに、パパの抱っこされて窓から外を覗くソラちゃん、おおはしゃぎである。
対面に座っているジェノさんも、そんな様子を微笑ましくみていた。
「大泣きされたときは、どうしてか分からんかったが、馬車に乗りたかったんじゃな」
「パパといっちょにねたかったの!」
「う……うん? そうじゃな?」
ちょ! 困ってるでしょ! それは夜になってから!
『パパ、こわ~い、いっちょにねよ!』 作戦である。わたしとソラちゃんが一緒に考えた!
それにしても、パパの巨体でもゆったりと乗れる馬車ってすごいな。
もちろん、それを引く馬も普通じゃなくて、グレイプニルっていう馬で、普通の馬の2倍の大きさだ。
足音が違うはずである。
それを馬車とセットで召喚魔法で呼び出したんだよね。
パパは魔王って改めて認識したね。親バカだけど。
転移魔法も興味あったけどね。
「ソラ様。今からそんなにはしゃぐと、すぐに疲れてしま――」
「パパ……おえって、ちたく……なてきた」
なんですと!
「なんじゃと! 病気か!」
人間の乗り物酔いなんて知らないか。ここの人達、そんなのに無縁そうだもんな。
「停車してください!」
ジェノさんが叫ぶと、馬車はゆっくりと停車した。
そして、外に出た瞬間……。
よくここまで我慢した! 馬車の中はノーダメージだ!
――ソラしゃん……。
あ~。乗り物酔いは初めてだもんね。大丈夫だよ。病気じゃなくて、しばらく休憩してたら治るから。
「ソラリス……大丈夫か?」
「おしょとみてたらね……おえってなったの」
パパに背中を擦ってもらって、気持ちは落ち着いたようだ。
「グランゾ様。恐らくですが、転移酔いみたいなものかと」
「なるほど。視界の急激な変化で気分を悪くしたんじゃな」
「はい。ソラ様は幼いですから、流れる景色と馬車の振動でそうなったかと」
「薬はあったかの?」
「今から作りますね」
と、ジェノさんが地面に手をかざすと、2種類の草が生えてきた。
その草から1枚ずつ葉を取って、両手で包み込んだ。
そして聞きなれない言語で詠唱すると、手が輝いて、手を開けば瓶に入った飲み薬が出来上がっていた。
エルフって、すげ~な。錬金術かな?
「さ、ソラ様。ちょぉぉぉっと! 苦くてす~っとしますが、全部飲んでください」
ちょっとっていうのを強調しすぎです。嘘ですね。幼児でも分かっちゃいますよ?
ほら、絶望で黒く染まっていってますよ?
――ソラしゃん、こうたい!
は? あれ、目の前に薬が……。同じ体だから、わたしも4歳の味覚なんですけど?
「はい、一気に飲んじゃってください!」
「うぅぅぅぅ!」
凄く苦い! めっちゃ、す~~~~ってする!
でも、なんとか飲み切った!
「ソラリス!」
あ、パパが抱きしめ――。
――こうたい!
は?
「よく我慢したの! えらいぞ!」
「えへへ」
我慢したのは、わたしだぁぁぁ!
ま、まあ、ソラちゃんも乗り物酔いで苦しんだし? わたしは大人だからね? うん。
……うわぁぁぁん!
――ごめんしゃい。こんど、こうたいちてあげる。
え? ありがと? ……なにを交代するのかな? タイミングは? 詳しく教えて?