第26話:しょれは、ないよ! の、ひ!
ある日、パパと大広間で遊んでいたら、狼人族のわんわんさんがやってきた。
しばらく見なかったけど、どこに行ってたんだろう?
「おう、嬢ちゃん。しばらく見ない間に大きくなって……ないな?」
失礼な! 92センチだったわたしの身長は、今は98センチもあるんだぞ! もうちょっとで100だ!
ドアノブに届け、わたしの手! オマルとオムツはもういやなんです!
て、そんなことよりも、何故かソラちゃんが困惑してる?
そっか~。ソラちゃんも成長してないって言われてショックだったか~。
――このひと、だれ?
忘れられてるぅぅぅ!
ほら、狼の顔の人が居たでしょ? ソラちゃんが怖がって、人型になった人!
「わんわん!」
「2年近く言いそびれてたが、俺の名前はウルガだ」
あ、それはうちのソラちゃんが大変な失礼を。
て、ソラちゃんが揺れる尻尾をじっと見詰めてるよ?
まさかね?
「ちっぽ、ぎゅ!」
「キャイィィィン!」
本当にとんだ失礼を!
動くものに興味をもっちゃう子猫ちゃんなんです!
「ははは! ソラリス、ちょっとウルガと大事な話があるから、膝の上においで」
「あい!」
抱きかかえられて、膝の上に座る。
大事な話ってなんだろう? わたしたちも聞いていいのかな?
「街のほうはどうじゃ?」
「う~ん。街は変わりね~が、最近は森に入ってくる人間が多いな」
「まちってなに?」
大事なお話を邪魔しちゃいけません!
「街というのはな、たくさんの人が集まって生活している場所じゃよ」
「俺の担当している街は、主に獣人族が多いな。あ、獣人っていうのは、俺みたいに耳と尻尾がある奴らのことな」
「ちっぽ! パパ! あたち、しょこいきたい!」
尻尾狩りに行くんですか? 全部の尻尾をぎゅってするんですか?
「そうじゃな……。人間達が森を抜けてくる可能性は?」
「ない……とは言い切れんが、モンスターが居る森を抜けたところで、俺達に襲い掛かる力など残っていないだろ」
「いきたい! いきたい! いくの!」
パパの膝の上で駄々こねちゃダメでしょ!
「仕方ないの~。俺が街の現状を直接見に行ったほうが早いし、ソラリスも連れて行こうかの」
「やった!」
「まったく。娘に甘いな」
「嫌われたくないもん」
おいおい! 本音はこっちか!
「森の周囲の警備を増やせば問題ないか。万が一、人間が森を抜けてきた場合は……」
惨殺ですか? 処刑ですか? 領土侵犯だもんね。仕方ないね。
「手厚く治療をし、向こう側へお帰りいただこうかの」
優しいな、パパ!
出発は2日後ってなった。
寝るまでのベッドの中で、ソラちゃんとわくわく計画を立てる。
だって、旅行ですよ! 城の周囲のお出かけと規模が違うんですよ!
しかもパパとだよ!
街までは馬車で2日だって~。
――とおい~。
最低でも1回は外でお泊りだね~。
――おしょとでねるの?
うん。だからお着替えはいっぱい持っていかなくちゃね。
――ジェノしゃんにおねがいしゅる~。
あ、もしかしたら、パパと一緒に寝れるかもね。
――むふふ。
楽しみだね~。
――ね~。
そして、出発の日。
お城の正面広場にみんな集合したけど、肝心な馬車がない。
まさか、馬車で2日の距離を歩いて行くの?
「用意はいいかの? 忘れ物はないかの? では、いくぞ」
パパが右腕を突き出して詠唱すると、目の前の空間が裂けて、大きな門が出現した。
「さ、この門を抜ければ街は目の前じゃ」
あ……あれ? 目の前?
――ソラしゃん、ばしゃは?
いや、ないみたいだね……。
楽しみにしてお泊り計画たててたのに……あっという間に移動って……。
あれ? 楽しい馬車の旅は? お泊りは?
「うわぁぁぁん!」
「ど、どうしたんじゃ! なぜ泣くのじゃ!?」
「「「あ~あ。な~かせた~」」」
「え? 俺?」
「うわぁぁぁん!」
泣いてもいいよ、ソラちゃん! わたしも泣いちゃう!
うわぁぁぁん!