第24話:おめかちちて、じゅんびしゅる! の、ひ!
ある日、ジェノさんが少し厚めの本を持ってきた。
あの暴発事件から魔法を禁止されていたソラちゃんは、新しい絵本かと思ったらしく、感情が喜びのピンクに色に染まっていったんだけど、目の前に置かれたのは文字がびっしりと並んだ魔道書。
感情が真っ黒に染まっていく。
「これ、いや! パパとあしょびたいの!」
床を転げまわって、手足をバッタンバッタンである。
スカートが捲れあがってオムツが見えようが気にしない。
パパと最近会えてないから、とっても不機嫌なんだよね。
どうして会えてないかって言うと、トレンティーさんと一緒に、あの魔法で荒れちゃった場所の復旧作業をしてるからなんだけど。
「ソラ様。まずは知識が大事なことが分かりました。あのようなことが起きないように、今回ばかりは私も心を鬼にしますよ」
まあ、うん。正論なのかな? 4歳に魔道書は難しいと思うけど。
――ソラしゃん、よめる?
うん。無理。わたしだって、まだ絵本の文字くらいしか読めないよ。
――もぉぉぉ!
いや、わたしに怒っても……て、どうしてわたしが怒られたのかな?
「ぷぅぅぅ!」
うつ伏せで頬を膨らませて、すこし顔を横に向けてジェノさんをチラッと見る。
「――っ! ああ、怒った顔もかわいい……」
お~い。鬼はどこにいきましたか~?
「……だめ?」
「し……仕方ないですね! やる気がないと効果がないですもの! パパ様に聞いてきますね!」
鬼は行方不明になったらしい。
ジェノさんは小走りに部屋を飛び出していった。
うん。ジェノさんには後でギュっとしてあげよう。
「えへへ。どれ、きようかな?」
と、ベッドの上にワンピースを3着並べるソラちゃん。
1着目は、飾りのない白いネグリジェ。寝巻きであって、間違ってもデートや遊び用ではない。
これを着ていくと、パパが勘違いしちゃうぞ?
2着目は、水色でウエストを締めるリボンが付いて、袖は肩よりちょっと下で小さなリボンで締めるドレスタイプ。1人では着れないし、こちらも遊びで着るようなものじゃない。
3着目は、ピンク色で、スカート部分にふんだんにレース飾りが使用されて、襟元もレースでヒラヒラな飾りが付いてて、胸にリボンが付いてる。いうなれば、舞踏会とかに着る豪華なドレスだ。
そして、今着ている普段着。同じタイプが何着もあって、袖のないノースリーブタイプのワンピース。
そのまま頭から被るだけで着易い、そして、脱がせやすい……まあ、なんだ、おもらしした時、こういうのが便利だよね、ははは。
……いや、いつ、おめかし覚えた?
――ソラしゃん、どれがいい?
いや、わたしは分かんないな~。
――え~。ソラしゃん、だめでしゅよ、しょれじゃ。
なんか、イラっときましたよ。
と、廊下をドタドタと走る音が聞こえてきた。
パパかな?
「ソラリスぅぅぅ! パパと遊びたいって聞いたから、一張羅のスーツに着替えてきたぞ!」
て、パパもおめかししてる!
普段のズボンにローブでいいじゃん! 遊びだよ? しばらく会えなかったからって、舞い上がりすぎじゃない?
なにそのスーツ! その筋肉巨体にスーツって、あっち業界の怖いお兄さんみたいじゃん!
……あ、パパは魔王だったわ。お兄さんじゃなくて、親分だわ。
「パパ、かっこいい!」
えぇぇぇ。