第20話:あたちの、かち! の、ひ!
氷が全部溶けて、水になり、刺さっていた大きな窪地が池になった。
透明度が高くて、ここに川が繋がれば、立派な湖になりそう。
てことで、氷がなくなって魔法の練習が解禁されたよ!
パパと、ホーネさんと、トレンティーさんの防御結界で守られながらだけど。
あ、守られてるのは、わたしじゃないよ? 周り全てだよ。
「ソラ様、あの的に向かって、火の魔法を使ってください」
と、ジェノさんが丸太で作られた的を指差した。
「あい! ひのけ、し! んよ! おろかかなるものをやきつく、せ! ふぁいや、しょ! と!」
突き出した右手から火の玉が撃ち出されて、的に命中。
シュゴォォォ!
と、火が天高く噴き上がる。
「なあ? 俺の記憶が確かなら、ファイヤショットって、当った対象を火に包むだけだったと思うんじゃが」
「かかか! 結界で抑えられてこの威力! 結界の維持だけで魔力が半分持っていかれた!」
「ソラちゃん。魔法ってね、感情の強弱で威力が変わるの。もうちょっと感情を抑えてみて」
「あい!」
元気に返事したけど、無理じゃないかな~?
だって、いま魔法を使ってるのは、感情そのもののソラちゃんだよ?
魔法を使える嬉しさ全力全開! の、感情100%ですよ?
「ソラ様、今度は水の魔法でお願いします」
「あい! みずのけ、し! んよ、わ、ざ! わいをおしなが、せ! うぉーたーぶりっど!」
撃ち出された水の弾が、的との距離が近くなるほど巨大になっていって、的に当る直前には高い水の壁になった。
ザッパァァァン!
「かかかぁぁ! 結界が砕けた!」
「津波じゃぁぁぁ!」
いや……押し流せって詠唱だけどね。うん。大惨事になった。
「これはあれですね。ソラ様はサ行の発音のとき、お腹に力を入れているので、そのときに感情が高ぶってしまうのかも?」
ジェノさんの冷静な分析だけど、多分、関係ないとおもいますよ?
「でも、感情の影響なんて、多少の誤差のようなものよ?」
「初級魔法で、上級魔法の威力にはならんじゃろ?」
みんなが集まって、話し合いが行われている。
これやばいな。
――どちて、やばいの?
魔法が大きすぎて、禁止になるかも?
――いや!
「こんど、じょうじゅにやるから!」
パパの足にしがみついて、いやいやと頭を振る。
「う~ん。ほんとに大丈夫か?」
「だいじょぶ!」
――ソラしゃん、やって!
わたしがするの? まあ、わたしならあんな威力にならないと思うけど。
「わかったわ、ソラちゃん。でも、また凄いことしちゃったら、心が成長するまでは禁止するからね?」
「あ……あい」
心が成長……いつになることやら。
とにかく、禁止されちゃったら可哀想だしね! とりあえず、この場は切り抜けて、あとで対策を考えよう!
「ひのけ、し! んよ、おろかかなるものをやきつく、せ! ふぁいや、しょ! と!」
サ行だけ腹に力を入れるって、難しいな!
まあ、飛んでいった火の玉は的に当って、小さな火で包んだ。
これで禁止にはならないかな。
――ふふ。
ちょ! その笑いは何? これが普通なんだよ?
――あたちの、かち。
勝負じゃないからぁぁぁ!