第196話:けむり、しゅご~い! の、ひ!
天使さんが、地面の上に様々な機材や素材を設置していく。
その様子を、ソラちゃんが正面からじ~~~と見詰める。
知らないことに対して、興味津々だね。
「これ、なに?」
「これは調合鉢ですね。細かく砕いた数種類の素材をこの中に入れて混ぜることで、それぞれの性質を併せ持った1つの素材を作り出すんですよ」
「ふ~ん……しょっか~」
ソラちゃんの返事に、得意気に説明した天使さんは満足しているみたいだけど、ソラちゃんは全然理解してないと思うよ?
だって、返事に ! これが付いてないよ。 ! これが。
ソラちゃん、今度は何やら、台座から1本の棒が上に伸びて、その棒の天辺から横に棒が伸びていて、その両端から皿が釣られている物に目が行った。
「これは~?」
「これは合成の天秤ですよ。金属を合成するときに使います。元になる金属を片方に乗せると、乗せたほうに傾いたでしょ? そして、もう片方に素材となる金属を平行になるように量を調整するように乗せていき、バランスが取れたところで魔力を注ぐと、中央の皿に合成された新しい金属が」
おや? ソラちゃんが説明されている天秤から目を反らして、足元の草を抜き始めちゃいましたよ?
「おはなち、ながいね?」
「……」
自分から聞いたんでしょ!? 話はいいから、せめて実演しているところ最後まで見てあげて!?
――え~? ながいち~。 むじゅかちくて、じぇんじぇん、わかんないち~。
3歳児には――。
――にゃに、いおうとちてるの?
何でもありません。
「難しい説明になってしまって、申し訳ない……」
天使さんは悪くないですからね! そんなに落ち込まないで!
「きにちなくていいから! ちゅぎは? ちゅぎは~?」
ソラちゃんはちょっと気にしようね?
「……このように、下準備した素材をこの錬金窯に入れて、調和水を入れて、火にかけて加熱しながら魔力を込めて掻き混ぜて……素材が融けてきましたね……」
あ、めげずに最後までしてくれるんですね。
「失敗することもありますが、成功すれば、身体強化ポーションが作れます」
ここまで来て確率なの? あ、でも、錬金窯の中の液体が虹色に輝いて成功しそうだね!
うん? ソラちゃん? その右手に持っているのは、さっき引っこ抜いた草かな?
「ぽい!」
「……は?」
草を釜の中に入れちゃった!
雑草が入った釜の中は、虹色の光が消え失せて、代わりに茶色やら紫色やらが混ざった濁った色になって、ボコボコと泡が噴き出してきて……。
ボフン!!
と、釜から黒い煙が噴き出しちゃった。失敗……ですね?
「しゅごいしゅごい! おもちろ~い!」
「……」
ソラちゃんが関わって、まともな勝負になるわけないじゃないですか~。
ね? ソラちゃんも喜んでるし?
落ち込んだ天使さんを横に置いて、只今ジェノさんとお菓子作りをしています。
「ソラ様、この小麦粉と卵と砂糖とバターを混ぜ混ぜしてくださいね」
「あい! がんばりゅ~! まじぇまじぇ~」
ボウルを抱えるように持って、ヘラのようなもので一生懸命に混ぜていると、程よいとろみの生地が出来てきた。ダマもなくていい感じ。
「では、最後にトロフワのメレンゲと1滴のバニラエッセンスを加えて、カップに生地を流し込んで、オーブンで焼きましょう」
「あ~い!」
錬金術とお菓子作りの、このソラちゃんの集中力の差よ……。
……そして、お菓子が焼き上がった。カップケーキマフィンっていうらしいよ?
ジェノさんが出来上がったお菓子を皆に配る。
「さすがソラリスじゃ! 美味そうじゃの!」
「「「ソラ様の手作り!!」」」
パパはもちろん、騎士さんも兵士さんも大騒ぎ!
でも、ソラちゃんの手作り? ソラちゃんは混ぜただけですよ? 作ったのはほとんどジェノさん。
――あたち、がんばったでちょ!
あ、はい。
「おいち~!」
「……フワフワで甘くて美味しいですね」
天使さんも、お菓子を食べて笑顔になってるね。
「ふふふ。お菓子作りも、料理も、錬金術も、いろいろな材料から1つの物を作り出すって、同じことでしょ? なら、皆を笑顔にするものを作り出さなくちゃね! もちろん、ソラ様の笑顔が1番ですけどね!」
「……師匠とお呼びしてもよろしいか?」
「私の修行は厳しいわよ?」
ジェノさんと天使さんは、固い握手を交わした。
料理と錬金術……まあ、似たようなものか?
「ああ、ところで、おぬし……」
「な……なんでしょう?」
天使さん、パパの圧力にタジタジ。
「名前は何ていうのかの?」
「……」
「「「……」」」
今までずっと一緒に居て名前を誰も聞いてなかったね!?
「あ、ああ。言ってませんでしたね。私は、タンドリーちき」
「けむりぼ~んしゃん!」
「……」
失敗したときの名前はやめてあげよ?