第192話:きゅうえんに、しゅっぱちゅ! の、ひ!
城から家に帰り、急を要する救援ってことで急いで支度をする。
猫さんポシェットを開き、必要なものを詰め込んでいく。
「おかち~! あめしゃ~ん! しょちて、またおかち~!」
急を要する救援……。いや、本当に必要なものは、ジェノさんが別に用意してくれているはずだから、いいんだけども。
ソラちゃん、飴はいいけど、クッキーとかはそんなに長持ちしないよ? 途中で腐っちゃうよ?
――む~! じゃ、いまたべりゅ!
あ、そうですか。そうなりますよね。
「ぽりぽり、おいち~!」
体中に広がる幸福感。うん、美味しいね。
――じゅんびちたら、ねみゅたくなってきちゃった。
ポシェットにお菓子を詰め込んでただけですが?
そういえば、今日はお昼寝してなかったね。
ベッドに向かってフラフラと歩いていって、もぞもぞと入り込む。
外は日が沈みかけ、夕焼けが景色を赤く染めている。幼児の体力だと、お昼寝をしなかったことも含めて、この時間の行動は限界を迎えている。
騎士さん達の命がかかっているため、準備が出来次第、救援に出発なんだけど……うん、抵抗しないで寝よう。
――おやしゅみ……。
おやすみなさい、ソラちゃん。
目を覚ますと、目の前に、頬が緩みっぱなしで今にも涎が垂れてきそうなジェノさんの顔があった。
「うやう!」
これには流石のソラちゃんもビックリして変な声出ちゃう。
「ソラ様、起きましたか」
うん。ビックリして完全に目が覚めちゃったよ。
「まだねみゅい……」
わたしの気のせいだったみたいです。
ふわぁ~、と、大欠伸を1つ。で、周りをきょろきょろと見回す。
「ありぇ? あたちのへやと、ちがうよ?」
うん。天井も違うし、壁の柄も違う。でも、何回か見たことある部屋だ。
「あ! わかったよ! ばちゃのなか!」
そうだね。ここはパパの空間拡張された馬車の中にある寝室だね。
見た目は少し大きいくらいの普通の馬車なのに、中に入ると一軒家くらいの広さといくつかの部屋があるんだよね。
さすが魔神のパパ。すごい空間魔法を使えるんだね。
――あたりまえでちょ! パパだもん!
そうですね。
馬車の中ってことは、自分の部屋で寝ちゃったソラちゃんは、起こされないで運ばれたってことかな?
「このまま、いくの?」
「す~は~す~は~……。ああ……ソラ様の残り香……」
ちょ!? いつも抱っこしているときに匂いを嗅いでいるでしょ! 寝汗の香りに反応しちゃったのかな?! 今はソラちゃんの質問に答えてくれませんかね?!
そんな願いが通じたのか、ベッドに寝そべっているジェノさんの背後に、薄っすらとこめかみに青筋が浮かんだトレンティーさんが近づいてきた。
「何を馬鹿な事してるの!」
「へべ!」
トレンティーさんに頭を叩かれたジェノさん。ベッドから転げ落ちちゃった。
「ソラちゃん、今ね、王都の外の草原に向かっているのよ」
「たしゅけに、いかないの?」
「行くわよ。でもね、兵士が100人くらい集合する場所が街中になくてね、草原で私たちと合流することになっているのよ」
「しょか~」
かなりの大人数だね。まあ、国王が居る王都だし、常駐の兵士もそれくらい居て当たり前かな。
兵士さん達が集合している草原に到着!
10人ほどの小隊単位で整列しているのは壮観だね~。
わたしたちも、馬車から降りて兵士さんの前に立つ。
ソラちゃんはパパに抱っこされているよ。いつもの定位置だね。
「さて、全員揃っておるかの?」
「は! 第3中隊100名、欠員なしです!」
少し立派な鎧を着た中隊長かな? その人がパパに報告した。
――ソラしゃん!
このタイミングで、何かな?
――このひとたち、よわしょうだね!
絶対に声に出して言わないであげてね!?
そりゃね、優秀な人たちの中から選ばれた騎士さん達や、常にモンスターと戦っている冒険者さん達と比べたらね……。うん、みんな頑張ってソラちゃんにいいところ見せようね!
「それでは、モンスターに包囲されている地点の手前に送るぞ」
パパが右手を高く上げると、兵士さん達の足元に魔法陣が浮かび上がって、魔法陣が光を発したと思ったらその足元に暗闇の空間が出来て、兵士さんがその空間に……。
「「「うわぁぁぁ!」」」
悲鳴と共に落ちていったよ。
転移魔法の一種だとは思うけど……。
「さて……」
今度は、わたしたちの目の前に見慣れたゲートが現れたよ。
「俺たちは安全にこのゲートから行こうかの」
……ん? わたしたちは安全にって、兵士さん達は安全な転移じゃないってこと?
――あなに、おちちゃったもんね!
だよね! ちょっと、パパ?! え? 大丈夫なの? 兵士さん達、戦う前に瀕死になってないかな?!