第190話:いちゅものこと。の、ひ!
騎士さん達が救助に向かってから3日が過ぎた。
おそらく、まだベエルフェッド君の領地にも辿り着けてないだろう。
――おしょいね?
その位が普通なんだよ? わたしたちは、パパのグレイプニールが速いから、3日くらいで着いちゃうけど。
物資を輸送している荷馬車もあるから、時速10キロもあればいいほうかな?
――あたちは、なんきろ?
全速力で1キロないくらいかな? そして、後ろから追いかけて来ているジェノさんは、早歩きで5キロくらいだね!
「ソラ様! 止まってください!」
「やぁぁぁだ!」
はい。学園内の廊下で、絶賛追いかけっこ中です。
いやね、ジェノさんの膝の上で授業を受けてたんだけど、退屈な勇者の授業に我慢の限界が来ちゃってね。
トイレいきたい! って、途中で授業を抜け出して、ジェノさんにトイレ前まで抱かれてきたんだけど、トイレに入る前に降ろされた隙をついて、因子開放でダッシュして逃亡しちゃった。
――あたち、かちこい!
……そういう知恵は勉強に生かそうよ。ていうか、トイレ行かなくていいの?
――おむちゅだから、だいじょぶ!
大丈夫じゃありません!
「追いつきましたよ!」
「くいっく! このまま……」
ジェノさんの右手に肩が捕まりそうになった直後、素早さ上昇の魔法で急加速。
そのまま引き離そうとしたところで、授業が終わったのか、別の教室から生徒たちが溢れ出て来た。
「わきゃ!」
「うおぉぉぉう!」
タイミングよく教室から出て来た男子生徒の脚と衝突。
因子開放中だったソラちゃんに弾かれて、男子生徒が錐揉み状態で宙に舞った。
――きゅうにでてくりゅから!
……あのお兄ちゃんにちゃんと謝ろ?
「ごめんなちゃい!」
肝心なお兄ちゃんを見もしないで走りながら謝る。
まあ、それでいいか。
「怪我したくなかったら道を開けて!」
ジェノさんの言葉で廊下に溢れていた生徒たちが端に飛び退き、廊下の中央が開けた。
そのまま加速して、廊下を曲がって昇降口への通路に!
と、思ったら、曲がった目の前に、キツネ耳とフサフサ尻尾を揺らしている人影が!
「ソラちゃん、捕ま~えた!」
「えう!」
はい。曲がった先で待ち伏せしていたアヤネちゃんに両脇を掴まれて、目線が同じになるように持ち上げられましたよ。
ソラちゃん、逃げられないと観念したのか、脱力して足プラーン状態ですよ。
――アヤネおねえちゃんいるの、わしゅれてたね!
まあ、いつも護衛としてソラちゃんに付いてきているけど、ソラちゃんが授業中を受けているときは、アヤネちゃんって剣術の講師として活動しているみたいで、ほとんど一緒にはいないんだよね。
「さて、どうして廊下を走ってたのかな?」
「でへへ~。どちてかな~?」
笑って誤魔化す! いや、無理でしょ?
「あら、アヤネちゃん。ソラ様を捕まえてくれたのね? それでは、ソラ様……分かってますね?」
「えう!?」
はい、お説教ですね。うん、こうなるって知ってたよ。
「……あ、でちゃ」
「「 あ 」」
オムツの中が湿気100%に……。
と、ジェノさんがバッグから新しいオムツを取り出していると、昇降口から守衛さんが走って近づいてきた。
「すみません。ソラリス様に王城まで来てほしいと、使者が来ているのですが……」
「……一旦屋敷に戻り、身を清めて、お着換えしてから向かうとお伝えくださいます?」
「……あ、はい」
ジェノさんの手に持ったオムツを見て察してくれたようだ。
――はじゅかち!
うん。恥ずかしいね。……オムツは、いつ卒業できるのかな?