第184話:しょのしぇいか、みてあげりゅ! の、ひ!
運んだ薪は、薪小屋に並べられて保管された。
運び終わって汗を拭うフェルノ君とベエルフェッド君を眺めていて、そういえばと思う。
ソフィアちゃん達が出てこないね?
――しょいえば! どちたんだろね?
いつもなら、ソラちゃんの声を聞いたら建物の中から駆け出してくるのにね。
「ばぁちゃ、みんな、どこ?」
「中でお勉強中よ。ソラちゃんも行ってみる?」
「いく!」
ばぁちゃよりもジェノさんよりも先に駆け出していく。でも、その走りは、ぽてぽ……。
――ちてないち!
あ、はい。
「ありぇ?」
孤児院の中にある、皆が勉強している談話室に入って、その視界に広がった物に動きを止める。
マグア君は冒険者活動で居ないのは分かってる。残っている子たちは、ソフィアちゃん、マリーちゃん、ケリー君。そして……背中に白い翼を持った……。
――しゃいころ! どちてここにいる!
どうしてだろね……。
天使のサイコロビーフが、皆と輪になって座ってそこに居た。
しかも、足し算をソフィアちゃんから教えられているという状態で。
4歳のソフィアちゃんから教えられている……。サイコロビーフの学力って、4歳児以下ってこと?
――しゃしゅが、あたちのらいばる!
いやいやいや! それだとソラちゃんも同レベルってことだからね!?
――ちがうち!
うん。わたしもそう思いたいよ……。
そんなことをソラちゃんとやり取りしているうちに、ソラちゃんがソロリソロリとサイコロビーフの背後に近づいていって、手を伸ばし。
わ! て、脅かすつもりかな?
ぶち!
「ぬぐあぁぁぁ!」
翼から羽根を引き抜いちゃった!
床を転げ回るサイコロビーフ。
わたしには翼が無いから想像できないけど、かなり痛いらしい。
って! そんなことしちゃダメでしょ!
「ごめんなちゃい! 『ひーる』」
証拠いんめ……治りました?
「わ……我が女神よ。凄く痛かったのであるが?」
「ほこりちゅいてたから、とったあげたの!!」
握ったままの埃? を「ほら!」と差し出す。
……誤魔化せますか? 幼女の行動は突発的で予測不能だから、許してあげて。
「おお! こんな大きな埃が付いていたのですか」
あんたの体の一部でしょぉぉぉ! 何を納得してるの!?
「ソラおねえちゃん!」
ソフィアちゃんが駆け寄ってきて、抱きしめ合う。
「ソラお姉ちゃんが来たから、今日のお勉強はここまでね」
と、マリーちゃんが教材を本棚に片付けていく。
6歳になったマリーちゃんは、ソフィアちゃんとケリー君の、しっかり者のお姉ちゃんって感じだね。
「そうだ、女神よ。我の修行の成果をお見せしよう。ソフィア師匠との特訓の成果ですぞ」
成果……。ちらっと見た紙には、書いた答えに全て×が見えたんだけど。しかも一桁の足し算だよ?
で、孤児院の庭に来たよ。
「ソフィア師匠とサイコロの改善をしたのである。まずは、サイコロの全ての数字を全て1に!」
得意気に見せて来たサイコロは全て1だね。
「そして! サイコロの数を増やすのではなく、3個固定にして、足し算よりもより効果の高い掛け算に!」
「しゅごい!」
ちょっと待って? 凄くないよ? 1の数字をいくつ掛けても、答えは1だよ?
改善じゃなくて改悪じゃない? ソフィアちゃんがこれを考えたの?
ソフィアちゃんを見ると、マリーちゃんと一緒に困った顔で首を横に振ってる。
あ~。これはサイコロビーフが足し算も掛け算も理解できなくて、2人揃って匙を投げた結果か。
「ふっふっふ。この大きな岩がちょうどいいですね」
庭の中央に突き出た、自分の胸位の高さの大岩に狙いを定めたようだ。
「いきますよ! サイコロを3個投げて! 1が3つ! 1×1×1は1! 1倍の攻撃力で、岩を殴って粉砕である!」
1倍……うん、素の攻撃力のままだね。あ、素の攻撃力でもそれくらいの威力があるのか?!
唸る右ストレート! ――ゴツ! クキン……。
岩は無傷。でも、サイコロビーフの手首が変な方向に曲がってた。
「うっ……ぎょわぁぁぁぁ!!」
悲鳴が、王都中に響き渡ったよ。
――おばかしゃんでしゅね。
うん。この駄天使、大馬鹿野郎だよ。
「なあ、ベル。これ考えたのソフィアちゃんだよな?」
「ああ、そのようだな……」
「「幼いのに恐ろしい策士だな」」