第172話:ばぁちゃと、やしゃちい、ちけん! の、ひ!
剣術試験での失敗の原因は?
木剣の強度が足りなかった。それが全てだろうね。
――ちぇかじゅのだ、かえちてくれないかな?
う~ん、次の魔法試験はアリアちゃんもSクラスだから、聞いてみようか?
――……あ! かえちてくれなくていい!
はい? どうしてかな?
――むっふっふ~。
ちょっと、ソラちゃん?
なんかね、聞いても答えてくれないまま、魔法の実技試験が始まっちゃったよ。
むふふ~。と、未だに怪しい笑みを浮かべていると、アリアちゃんが後ろから抱きついてきて、耳元で声をかけて来た。
「ソラちゃん、剣術試験でやらかしたって聞きましたが……」
「あたちじゃないもん!」
はい、わたしです。
まあ、アリアちゃんは……ていうか、皆はソラちゃんの中にもう1人、わたしが居るって知らないから、何を言っても言い訳になっちゃうんだろうけど。
そんなソラちゃんを見て、アリアちゃんは制服のポケットから世界樹の枝を取り出して、差し出してくる。
「力を制御できなくて暴走させたんでしょ? やっぱり、これは返しておくべきですわね」
「いらにゃい!」
ぷいっとそっぽを向くソラちゃん。
拗ねちゃってるのかな?
――むふふ。ソラしゃんは、ちぇかじゅのだが、なかったから、ぼ~しょ~ちちゃった。あたちも、ないから、どか~んって、ぼ~しょ~できる!
拗ねたんじゃなくて悪だくみだったよ!
さっきから、むふふ~! って怪しい笑いをしてたのはこれを狙ってたからか!
……ていうかさ、ソラちゃんの場合、あってもなくても、結局はどか~ん! じゃないかな?
「え~、これから魔術試験なんだが……」
魔術の教師が、何故かソラちゃんに視線を固定してくる。
「ソラ様に関しては、魔法の腕は十分に理解していますので、試験は受けなくてもいいということに」
「えうぅ!?」
あら、対策をされちゃってたね。
まあ、無詠唱に破壊力、それに聖女としての様々な癒しの魔法。どれをとっても教師よりも実力はかなり上だしね。
試験なんて受けてもあまり意味がないってことかな?
「いやぁぁぁ! ちけんしゅるの! どかんってしゅるの!」
地面を転がり、足をバタバタさせちゃった。
うん……どかんってするって言っちゃってるし、教師の対応は変わらないよね。
ほら、ソラちゃん。アリアちゃんも皆も困ってるから……。
そんなに足をバタバタさせたら、キュロットスカートでもオムツが見えちゃうから。
――やあぁぁ!
「あらあら、ソラちゃん、どうしたの?」
「ばぁちゃ!」
突然に登場したばぁちゃの声に反応して、ぱっと素早く立ち上がり、ジャンプして抱きつく。
ばぁちゃは優しく抱き止めてくれて、頭を撫でてくれる。
「皆さんに迷惑をかけちゃダメよ?」
「かけてないよ。いいこにちてたもん!」
うっそだぁぁぁ!
――まだかけてないでちょ!
あ、はい。盛大な迷惑はまだかけてませんでしたね。
ばぁちゃは、教師から話を聞いた後、ソラちゃんを抱いたまま魔法訓練所の隅まで移動した。
「ソラちゃんは私と試験しましょうね」
「あい!」
ばぁちゃはソラちゃんを降ろして、目の前に1つの鉢植えを置いた。
土だけが入っていて、芽も何も生えてない普通の鉢植えだ。
「この鉢植えに優しい魔法を使って花を咲かせてみて」
「おはな、なんでもいいの?」
「ええ、いいわよ」
「あい!」
――ソラしゃん!
うん。いくよ~!
「『はーべしゅとぶれーちんぐ!』」
鉢植え全体が輝いて、土から芽が出て、葉が広がり、茎が伸びて、ピンク色の花びらがいっぱいの可愛い花が咲いたよ。
「まあ! 凄いわね! これはソラちゃんの名前のソラリスね。花丸満点ね!」
「えへへ~。はなまる~!」
むふふ笑いがえへへになった! さすが、ばぁちゃだね。
「ソラちゃんは、優しい魔法を使わないとね」
「あい! やしゃちくしゅる!」
ついでに大人しくなってくれればね~。
――ソラしゃん! これかりゃは、やしゃちくどか~んだね!
どか~んは、いりません!