第171話:やりしゅぎソラしゃん! の、ひ!
午前の地獄の時間が終わったよ。
書き取りと計算の試験はなんとか出来た。
――ソラしゃんが、おちえてくれたちね。
まあ、書き取りと計算だったら簡単だしね。計算なんて、小学低学年レベルだし。
本当はソラちゃん1人でやらなきゃ意味ないんだろうけどね。
――おひるたべたりゃ、けんとまほ~だね! まほ~がんばる!
ちぇかじゅのだを出して振り回して、やる気がみなぎってますね。
体を動かすのは大好きだからね。
「きゃ!」
と、食堂への移動中、前を歩いていたアリアちゃんの短い悲鳴。
ソラちゃんが振り回していた、ちぇかじゅのだが、アリアちゃんのスカートに引っ掛かって、スカートが捲れちゃった。
「くましゃん、かわいいね」
「――!! ソラちゃん!」
「えう!?」
両手でほっぺを挟まれちゃった。
――たちゅけて!
いや……無理でしょ。
下着のお尻部分にクマの顔がプリント? 刺繍かな? がされているのが見えたんだけど……。
さすがにね、声に出して言っちゃダメでしょ。
男子も移動中なわけで、スカートめくりだけでも恥ずかしいのに、下着の柄まで暴露って、そりゃ恥ずかしくて怒りますよね。
「こんな人が多いところで、それを振り回しちゃ危ないでしょ?」
「あ……あい」
にっこりと笑顔なのに、綺麗な金髪のツインテールが半分逆立って怒りを表現していらっしゃいますよ?
「これは危ないから、今日1日は没収ね」
「あい!」
さすがのソラちゃんも、アリアおねえちゃんの怒りには逆らえなかったよ。
――くましゃん、かわいいのに、おこりんぼ!
それ絶対に言っちゃダメだからね!
で、昼食を食べてからの剣術試験。
講師は仮の勇者ことリンバーグさんだ。まあ、この人、剣術は達人級なんだよね。
ソラちゃんとわたしがその上を行っちゃってるってだけで。
「あ~、今までなら、俺と模擬戦をしての試験内容なんだが、今回は的に向かって剣技を披露してもらう。そのほうが安全だからな。……俺が」
「「「ソラちゃんから逃げた」」」
剣術Sクラスの皆がリンバーグさんを呆れた目で見ているけど、わたしはそのほうがいいと思ってるよ。
だって、勇者リンバーグさん相手だったら、ソラちゃんが暴走して大惨事になりかねないもの。
「よし、それでは、マギウスから、最後にソラちゃんだ」
「はい! では、1番手マギウス、いきます!」
マギウス君が、剣を抜いて構えた後、頭の上に振り上げ、一直線に振り下ろすと、闘気の刃が飛んで行って的を真っ二つにした。
技名でいうと、ソードスラッシュかな?
その後の生徒たちも、闘気をいくつもの刃に変えて切り刻んだり、右下に切り下してから左上に切り上げるⅤスラッシュとかをしてみせたけど、派手なだけで、明らかにみんな威力不足だね。
技の前の隙も大きいし、技の後の硬直も致命的だね。技を避けられたら反撃されちゃうよ?
――かっこいい! ソラしゃんも、おなじのやって!
説明聞いてました? 同じのやっても、多分、リンバーグさんの評価低いよ?
――いいの! やるの!
あかん、見た目だけの技にソラちゃんが魅了されちゃってるよ!
まあ、仕方ないか。えっと……あ! ちぇかじゅのだがないや! そういえばアリアちゃんとは剣術のクラスが違うんだった!
「ゆうちゃ! けん、かちて!」
「うん? ああ、今日はあの枝を持ってないのか。ほれ、ミスリルソードを貸してやろう」
と、腰に差していた剣を手渡してき――。
がしゃん! と、鞘に収まったまま剣が地に落ちる。
「おもい! もてりゅはじゅないでちょ! ゆうちゃのばぁぁぁか!」
今はわたしが主導権だけど、ソラちゃんと変わらず力は3歳児なんだぞ!
「……ごめんて。そんなに怒らないでくれ、ソラちゃん」
この野郎! 素直に謝りやがって! 確信犯なんだろ!
――ソラしゃん、そんなにおこっちゃだめよ?
……うん、そうだね。
あれ? いつもと立場が逆だぞ? ……なんかちょっと悔しいのはなんでだろ?
結局ね、軽い小さめの模擬戦用の木剣を使うことにしたよ。
刃渡り70センチあって、ほとんど大剣に近いけど、因子開放すれば問題なく振れるね。
で、闘気ってものが分からなかったから、勇者の力、ブレイブで代用することにしたよ。
「ぶれいぶ!」
全身から溢れた勇者の力を剣に移して、振り上げると共に、収束させて刃にして飛ばすイメージで振り下ろす!
「ぶれいぶしゅまっちゅ!」
幼児言葉でさらに嚙んじゃった! それに加えて。
ばきぃぃぃん!
木剣がブレイブに耐えられなくて砕け散っちゃった!
収束されるはずのブレイブが砕け散ると同時に拡散して、そのまま振り下ろされて。
ずががががぁぁぁん!
横一列に並んだ剣術用の的も、前方の地面も吹き飛ばし、後に残ったのは扇状に広がる深い穴……。
「「「……」」」
――いりょくぶしょく?
ありすぎた……ね。
ていうか、因子開放にブレイブって……やりすぎちゃった!
――おちちゅこう、ソラしゃん。
……はい。