第17話:パパはすごい! の、ひ!
魔法が使える! って思ったけど、明確な問題があった。
ジェノさんが、お手本を見せてくれる。
「水の化身よ、眼前の敵を穿て! アイスランス!」
超圧縮された氷の槍がパシュン! と飛んでいって、的になっている丸太に当って穴を開けた。
「しゅご~い!」
感情さんや、絶対にこの人達を怒らせちゃダメだぞ?
「やってみてください。最初は魔力がうまく練れなくて、失敗するのが当たり前だから気楽に」
「あ……あい!」
緊張するなよな! ドキドキだな!
「みじゅのけちんよ、がんじぇんのてきをうがて。 あいしゅらんしゅ!」
し~ん。何も起こらない。
「……ソラ様、さ、し、す、せ、そ。はい、言ってみてください」
「しゃ、ち、しゅ、しぇ、しょ」
「……」
……。
なんてこったい。サ行の発音がちゃんとできないぞ!
傷心の感情ちゃんは、部屋に戻るとベッドに潜りこんだ。
お~い。練習しよ~。
――や! できないもん!
拗ねましたよ、この子は。
じゃ~わたしがやってみるから、交代して。
――しゅきにしゅれば!
感情が拗ねるとやっかいだな……。
交代してもらって、ベッドから起き上がる。
とりあえず、唱えてみるか……。
えっと、確か、水の化身よ、で、属性起動のワード。
眼前の敵を穿て、で、魔力を練って形を作り。
アイスランス、で、実体化して発動だったよな。
まずは属性起動……。
「水のけちんよ!」
……。
「あ~! もう!」
ベッドの上で転げまわる。
――ソラしゃんも、いっちょ。
そうだね~。ははは。
そう、一緒なんだよ。舌の幼さがね!
体は同一なんだから当たり前だよね。
「しゃ、ち、しゅ、しぇ、しょ」
あ~! もう! どうして『し』が、『ち』になるの!
――ちがうの、ためしゅ?
それ! やってみよう!
「火のけちん……かじぇの……ちのけちんよ……」
あのね、最初の一句で詰んでるんですが?
夕食の時間。この夕食だけは、みんなが揃って食べる楽しい時間なはずなんだけど。
わたし専用に作ってもらった、1人で座れない、降りれない背の高い椅子に座って、パパの隣りでご飯を食べてたんだけど。
「……はぁ」
ソラちゃん、溜息ばかりで目の前にある大好物の小さなハンバーグを食べてくれない。
かなり落ち込んでいらっしゃる。
このままこれが続いたら、わたし餓死しちゃう。
「どうしたんじゃ? 全然食べてないの……。ソラリスがそんなんじゃ、俺も心配で食べれないぞ」
「ソラ様は、サ行の発音が出来ないらしく……」
「あ~。それで落ち込んじゃったんじゃな。ソラリス……」
パパが椅子から立ち上がって、わたしの横にしゃがんで視線の高さを同じにした。
「パパの口の動きをよく見ておくんじゃぞ?」
「あい……」
横を向いて、しっかりと見る。
「さ、し、す、せ、そ。どうじゃ? やってみせておくれ」
「しゃ、ち、しゅ、しぇ、しょ……うう」
「口の動きは問題ないの。ほ~れ、プニプニほっぺは泣いちゃダメじゃ~」
「……ふふ」
プニプニつんつんされて、少し笑顔が出た。
「口だけじゃなく、お腹からしっかりと息を吐くようにしゃべってごらん」
「おなか……さ! し! す! せ! そ! ……できたぁ!」
「ははは。最初はお腹を意識しての。もっとおしゃべりをたくさんして舌の発育が進んだら、自然に発音できるようになるぞ」
「あい!」
すごい!
――パパの!
魔法だ!