第169話:あしょびあいてにも、ならないね? の、ひ!
世界樹の枝の力を借りた祝福が暴走。
原因はパパの過剰魔力!
まさかね、地形変動まで起きちゃうなんてね。ここの領地は、幻想的な大自然が広がる魅力的な地になったよ。
問題はやっぱり、どこまで影響があるかだよね。世界地図を書き換えないといけないくらい、地形変動が起こってたら大変だよね?
――かじぇのしぇいれいしゃんに、みてきてもらう?
だね~。確認はしておかないとね。
――あい!
ソラちゃんが、口の前で両手で円を作り、大きく息を吸い込んで。
「す~……かじぇのしぇぇぇぇれぇぇぇ――」
――えうう! くるち!
息が続かず、酸欠で眩暈を起こして座り込んじゃった!
「ソラリス! 大丈夫かの!? 魔力切れかの?!」
いえ、ソラちゃんの魔力は、8を横にした記号っぽいので大丈夫なんですが、咆哮と肺活量のバランスがですね……。
ていうか、どうしてそんな呼び方をしちゃったのかな?
大自然の中で叫びたくなっちゃうあれですか?
パパの大きな手で背中を撫でてもらっていると、呼吸が落ち着いてきた。
で、すっと立ち上がり、右足で何度も地を踏み叩く。
何故かお怒りモードですよ?
「しゅぐきてくれにゃいと、だめでちょ!」
『はい! 来ました!』
つむじ風が起こったと思ったら困り顔の風の精霊が現れた。
何度か言ってると思うけど、幼女は理不尽である。
「ソラリスや、そんなに怒っちゃいかんよ? いつもはどうやって呼んでるんじゃ?」
「ふちゅ~によんでりゅ!」
……。
「パパ! にじ~! きれいね」
「ほんとじゃな~」
大滝から流れる水が飛沫をあげて、太陽の光で虹が浮かんでる。
地面に座ったパパの膝の上にソラちゃんも座り、2人でほのぼのと自然を謳歌する。
『ただいま帰りました~! て、私が世界中を駆け巡っている間に、なぜに和んでいるんですか?』
「いや……待っている間、暇だったんでな」
「でーとちてた!」
パパと2人で居る時は、全てデートになるらしいですよ?
『……。まあ、いいですけどね。えっとですね、祝福で地形変動があったのは、この中心点から見える範囲のみで、ほかの地域だと、地形変動は見られなかったですけど、全ての大地が肥沃な地へと変わってました』
「なるほどの。妖精たちのやるべきことを、ソラリスがたった1度の祝福で解決してしまったと?」
『はい。これからは自然に草木が生え、森が育つでしょう。畑なども、人間たちが自ら耕し育てれば、十分な収穫量が確保できるでしょうね』
いきなり畑が出来て、すでに野菜が実っている状態ではないってことかな?
「ふむ……。それでも、これから秋になり、冬になることを考えれば、まだまだソラリスの祝福は必要か。ちと、これからのことをトレンティーと相談してくるが、ソラリスはどうする?」
「もちょっとあしょぶ!」
ジェノさんが居ないから遊び放題だ!
「そうか。風の精霊よ、お守りをよろしくの」
『お任せください!』
――……じゆうに、あしょべない!
いや、何をするつもりだったの? 風の精霊さんの立場も考えてあげて? お守りを任されて喜んでるんだから。
パパが街に帰っていったあと、ソラちゃんは地面に寝そべってゴロゴロと転げ回った。
ワンピースは汚れ、髪には草がいっぱい絡みついてる。
ジェノさんだったら寝ころんだ時点で注意してくるだろうけど、風の精霊さんはその様子を見てただニコニコと微笑んでいるだけ。
お守りといっても、止めるでもなく、注意してくるわけでもなく……。
あれだね、お守りって、見守るってことかな? パパの意図とはかなり違うと思うけど。
出来立ての自然の中で、まだモンスターも湧いていないから安全かなって思っていると、上空から天使が4人舞い降りて来た!
グルンド王国の兵士から攻撃され、逃げ帰った天使たちだ!
――ぐりちきがいる!
だね。天使のグリルチキンもその中に居たよ。
「くっはっは! 久しぶりだな聖女よ! これだけ盛大な祝福をしては、魔力も残っていないだろ!」
遊び回るくらい有り余ってますが? むしろ、大人しくなるまで減らすにはどうしたらいいんでしょう?
「我ら最強の天使4人が相手になってやる!」
幼女相手に4人って、プライドはないのかな? 1回負けてるから、プライドは捨てたのかな?
で、ソラちゃんはそんな4人の天使の前で腕組みをして、怒ったように言い放つ!
「しゃいきょうは、ひとりでちょ!」
「「「「なっ!」」」」
驚愕な表情を浮かべて固まっちゃったよ。
最も強いから最強であって、それを4人で名乗っちゃダメでしょ。ていうか、ソラちゃん、そこによく気付いたね。
「最強は……」
「「「俺に決まっている!」」」
4人で、殴る蹴るの乱闘が始まっちゃいましたけど。
ソラちゃんと風の精霊さんは、それを座って観戦。
しばらく経って、3人が地に倒れ、辛うじて足が震えながら立っていたグリルチキン。
最後まで立っているあんたが最強なのか。顔は殴られて腫れ上がって原型が分かんなくなってるけど。
「……俺が……最強……だ。聖女よ……勝負し……ろ」
「ちぇかじゅのだ!」
枝の先で膝をぺちん! と叩いたら、グリルチキンは崩れ落ち、気を失ったよ。
そして、天使4人は風の精霊さんの風に乗せられ、遥か彼方へとポイってされたよ。
幼女の言葉に踊らされる天使4人……何しに来たの?