第166話:たのもちい、えんぐん! の、ひ!
100人の元敵兵さん達は、洗脳が解除された直後は混乱していたけど、混乱が収まってくるとこちらの指示に素直に従ってくれた。
問題は残りの4900人の兵士達だけど、大半は無理やり集められた農民さんたちだよね?
まあ、無理やりって言っても、洗脳されて敵意むき出しだけど。
――ソラしゃん、あっちまでとどかなかったね。
うん。ちょっと遠すぎるみたいだね。
――またしゅる?
あ~、ごめん。勇者の力を開放できるのは、1日に1回だけみたい。
――しょか~。
マジックアップルの食べ過ぎでお腹ポッコリなソラちゃんと――。
――ぽっこりちてないち!
ごめん、間違えちゃった。魔力無尽蔵なソラちゃんと違って、わたしの勇者の力は制限があるんだよね。
アデルが本当の勇者だし。わたしは勇者の欠片のようなもの……。
――かけらじゃないでちょ! ソラしゃんはソラしゃん! あたちとソラしゃん、ふたりでひとりゅ!
……そうだね。最後、幼児言葉じゃなかったら最高だったけど。
ソラちゃん、ありがと! そう、わたしたちは、2人で1人!
今、理性と感情が合わさるとき!
「パパ! どちよ!」
困ったときは大人に頼ろう! って、今までの流れはどこいった?! ……ソラちゃん、わたしよりもパパを頼っちゃうのね?
「ソラリスが困っておる!? ど、どうすればいいんじゃ?! トレンティー、ジェノよ!」
「え? どうすればいいの? ジェノ!」
「私ですか!? えっと……ソラ様に抱きついて落ち着きましょう! ぎゅ~!」
「むぎゅ!」
この大人たちはダメダメだ!
「あの~、和んでいるところで恐縮なのですが、敵が動き出しました」
「ぬ? おお! 今度は全軍で突撃してくるようじゃな」
どどどって音と共に、土煙が見えた。
泥沼はソラちゃんが吹き飛ばしちゃったから、乾燥した荒野に戻っちゃってるんだよね。
降ってきた泥も、すぐに乾燥しちゃったし。
「我々50人の兵力で、5000近い兵を相手にするのですか……やるしかないですな!」
ソラちゃんの回復と防御魔法でどうにかなるかもだけど、パパ達の、傷付けたくないっていう想いと、さすがにこの兵力差はね……。
ここは防げても、わたしたちを回避して回り込んで王都にまで行かれたら、そこで敗北だよね。
1週間で防衛戦力を整えるなんて出来ないだろうし。
「魔法攻撃が多数来ます!」
火の玉が凄い数飛んできた! どうやら、ほとんどが農民の徴兵だけど、敵の本隊の中に正規の魔法兵が居るみたいだね。
「『まじっくちーりゅど!』」
前面にマジックシールドを展開する。反射のりふれくしょんだったら反撃も出来るけど、傷付けないが目標だからね。今回は防ぐっていう選択だね。
あ、でも、さすがに相手の魔法の数が多くて防ぎきれないかも。
と、そのとき、1人の妖精が目の前に飛来した。
伝令を頼んだ妖精さんだ。その子の後に続くように、沢山の妖精が次から次へと飛来して。
(お待たせしました! 仲間を連れてきましたよ! みんな、いくよ~!)
(((マジックシールド!)))
空を覆いつくすほどの妖精たちが、わたしたちの前面で壁になるように整列して、一斉に魔法障壁を展開した。
そして、人間の魔法力が妖精の魔法力に勝てるはずもなく、全ての魔法を難なく防いだ。
「あなた達、よく来てくれたわね。で、国王には伝言してくれたの?」
(国王? 人間とは口を聞きたくないからしてません!)
お~い! 皆に伝えてくる~! て言って飛んで行ったじゃん! ……あ、いや、皆って、妖精だけってこと? 国王なんて明言してないね。
国のトップが戦争状態になってるのを知らないのは問題だけど。まあ、戦争なんて知らせたらアリアちゃんが悲しむしね。
(ソラ様の花畑に居た子たちだけ7000人連れて来た~!)
花畑だけでそんなに居たの?! どんだけソラちゃんの花畑好きなんだよ!
――あたちの、はなばたけ、きれいだもん!
そうなんだけどぉぉぉ! 世界の大地の回復をもうちょっと頑張ってあげて!
まあ、これで数的不利は覆ったね。で、やるべきことは……。
「ようしぇいしゃん! ちからをかちて!」
(((イエス! マイプリンセス!)))
なに? この統率力は? あ、はい。いきます!
「『えんちゃんと! ぴゅりふけちょちょ!』」
ソラちゃんから溢れ出た浄化の光を妖精たち全員が身に纏って光輝く。
(いくよ、みんな! とつげき~!)
(((お~! 見敵必殺!!)))
必殺はダメぇぇぇ! 殺さないでぇぇぇ!
昼間なのに、光の筋がはっきり見える流星群が敵集団に降り注ぎ、悲鳴が荒野に響き渡った。
後に残ったのは、洗脳が解除され、おでこにタンコブを作って倒れ伏している人たちだった。
うん。体長15センチくらいの妖精さんの体当たりって、ちょっと強いデコピンみたいなものだよね。
――みんな、ちあわしぇしょうなかお、ちてるね。
うん。可愛い妖精に体当たりされて嬉しかったんじゃないかな……。
まあ、こうして、国のトップが知らないうちに戦争になって、1度も戦闘らしい戦闘もないまま、終結しちゃったよ。
――ソラしゃん、しぇんしょうって、こんなのなにょ?
え? いや……基本は、ほのぼのだからね? 人とはあまり争わないっていうか……。
――ゆうちゃぁぁぁ!
あ、やめて! わたしも、勇者の力に目覚めてるから、わたしのことじゃないって分かってるけど心にダメージが……。