第164話:たたかわじゅちて、かちゅ? の、ひ!
救助活動はなかなか苦戦しているみたいだね。
助けるためにロープを持った人が泥に埋まった人に近づこうとしたら、その人まで胸の辺りまで埋まっちゃってるし。
どうしてロープを持って泥沼の中に入っていくのかな?
固い岸からロープを投げて、そのロープを掴ませたらいいのに。
――あたちも、いっちょにあしょぶ!
はい?
「いんちかいほ~!」
地を蹴って、高い台から飛び上がる。
おそらくは、沼の中心点と思う場所に向かって風の精霊に運んでもらい、到達した直後に急降下。
「ばしゃ~ん!」
そのまま風の衣を纏って泥に突撃。
風の衣が破裂、全ての沼の泥が衝撃波で天高く弾け飛ぶ。
その後どうなるか? お解りですね? 降ってくるんですよ、小分けされた泥の塊が。
水分が含まれた泥の塊って、重いんですよね~。当然、頭に直撃するとかなり痛い。
一旦は、助かった~! と、喜んでいた敵側の兵士さん達。でも、泥が落ちてきた途端に逃げ惑っている。
「きゃ~! きゃ~!」
ソラちゃんも降ってきた泥から逃げてるけど、明らかに遊びの範囲内だ。
落ちてきた泥を避ける。地面に落ちた衝撃で泥が弾ける。弾けた泥が赤いワンピースのスカート部分にべちゃっと着く。
靴も全身も泥だらけ。
――たのちいね!
うん。今はね。
後のことを考えないのは幼児だからね……。わたしは予想できるけど、わたしじゃソラちゃんは止められません。
「ただいま~!」
ひとしきり遊んだ後、パパ達の前に跳んで着地したんだけど。
「ありぇ? みんなもどろだりゃけ?」
みんな、泥でびっちゃびちゃ。あれだね、流れ弾? 流れ泥? に巻き込まれたみたいだね。
まあ、広大な泥沼が一気に弾け飛んだんだから、泥が降ってくる範囲も広くなるよね。
「そ~ら~さ~まぁぁぁ!」
「きゃ~!」
泥遊びした後は、ジェノさんと追いかけっこ。いつもの光景です。
「グランゾ様……私たちは戦争をやりにきたんですよね?」
「う、うむ。ベエルグラッド殿の言う通りなのじゃが、ソラリスを連れて来た時点で、まともな戦争になるはずがないじゃろ……」
「待ちなさい! ソラ様!」
「やぁぁなの! きゃっきゃ!」
……。
結局捕まって、すぽぽ~んっと裸にされて、すぽんと新しいワンピースに着替えられ、お茶を楽しんでいたら、敵軍を見張っていた兵士さんから行軍が開始されたと報告があった。
「やっと動き出したのかの?」
「まあ、あちらは、まともな意味で大混乱でしたからね」
降ってきた泥で前線崩壊してたしね。で、こっちはソラちゃんが大暴れ。
その様子に、緊張してた兵士さんの頬は緩み、和みきってたよ。
――ソラしゃん! いちばんまえで、みてみよ!
あ~、うん。わたしもちょっと見てみたいね。
「あ、ソラ様。前まで来ては危ないですよ?」
「だいじょぶ!」
立っていた兵士さんの脚にしがみつき、そっと眺めてみる。
ソラちゃんにしがみつかれた兵士さんを、周りの兵士さんが羨ましそうに睨んでたけど、それは無視しよう。
――てんち、いる!
そうだね。
敵の兵士たちの上空に、4人の天使が行軍に合わせて飛んできてた。てことは、この戦争は聖王国もからんでいるってこと?
――しぇんのう、しゃれてるの?
かもね。
『他種族に味方する国よ! 5000の兵力をもって滅ぼして、そのまま魔王国に攻め入ってくれる!』
1人の天使が、開戦の宣誓を言い放った。
対するは、この国の代表、この地の領主、ベエルグラッドさん!
「侵略者に成り下がった国にな」
「てんちも、ひとじゃないでちょ!」
……。
割り込んじゃった! そしてこの戦場前の戦場? に訪れた静寂!
先行していた敵の部隊が一斉に向きを変えて天使に視線を向けた。
あ、敵の魔導士部隊から天使に攻撃魔法が。
逃げる天使を、追う兵士達。
5000人対天使4人の構図になっちゃった。
――おいかけっこ!
いやいや! ちがう……違わないか。
あれ? 戦争はどこにいった?
誰だ? 戦争にソラちゃんを連れてきたのは?