第163話:どろあしょび、たのちしょう? の、ひ!
翌日。戦争開始まであと6日あるってことで、街の周辺だけでも祝福をしておこうってことになった。
まあ、小規模ながら祝福で野菜を作ったのが原因で、街の皆から嘆願されたからだけど。
こっちも、もともとそのつもりだったしね。
「防壁の周りを畑にしようかの」
パパに抱かれて、防壁の周りを見て回る。
何もない荒野になってるから、いろいろなものを作り放題だ。
パパが魔力を地表に流し、そこへ祝福をかけていく。
あっという間に防壁の周りに畑が出来て、豊かな土から野菜が実っている。
「パパ、みじゅはどうしゅるの?」
空には雲が流れ、雨が降るようになったとはいえ、未だに大部分の大地は乾燥してひび割れている。
今作った畑も、雨が少ないと乾燥した大地に侵食されちゃうかも。
「う~む。畑の外周は泉のある森にしようかの。そこから水路を作れば、畑にも水が行き渡るじゃろ」
「森を作るのなら私の出番ね。街に向かって内側は普通の森に果物が取れる木を多めにして、外側は防衛の壁の役目を持たせて、迷いの森にしましょう」
トレンティーさんの提案で、防衛の森を作ることが決まった。
かなり大きな森になるけど、森の精霊女王のトレンティーさんの力を借りれば、そんなに難しくはないかな?
「じゃあ、イメージしながら魔力を流すわね。ソラちゃんは祝福をかけてくれればいいわ。コントロールは私がするからね」
「あい!」
トレンティーさんが背中の葉の翼を広げると、魔力が輪を描くように広がっていった。
――あたちのでばん!
暴走させないでね?
――わかってるち!
うん。落ち着いて?
「『はーべしゅとぶれーちんぐ!』」
ソラちゃんの祝福の光とトレンティーさんの魔力が混ざり合い、光の魔力が森の木々を形どり、具現化して街を囲む巨大な森になった。
「東西南北の四方に泉を設置しておいたわよ。果物もあるけど、それを収穫するときは妖精の許可をとってね。あ、この街から森の外に出る時は、妖精に道案内をお願いしてね。じゃないと森の中で迷って出れなくなるわよ」
すげ~。自然の要塞が出来ちゃったよ。泉の水も枯れることなく湧き続ける聖なる水だし、畑に撒いてもいいし、飲み水にもなるね。
「聖女様! 早速、畑の収穫と果物の収穫をしてよろしいでしょうか?」
「どじょ~。みんなで、わけてたべよ!」
「「「収穫だ~!!」」」
わ~! と、子供たちが畑に群がり、大人たちは妖精に連れられ森の中に入っていく。
これで、この街の食糧問題は解決だね。後の畑の維持とかは任せるしかないけど、聖なる泉の水があればそこまで大変じゃないかな。
それと、他にも3つの村があるようだけど、村人達は領主のベエルグラッドさんの指示で隣領に疎開しているらしいから、祝福をかけるのは戦争が終わってからでもいいよね。
戦争開始当日。
「おちろ、かんしぇ~!」
「ソラちゃん、すご~い!」
「えへへ~」
ソラちゃんが、積み木を組み合わせ、最後に屋根の部分に三角の積み木を載せて小さいお城が完成した。
仲良くなった数人の女の子たちと、外の公園広場で遊んでるんだ。積み木は建築木材屋さんが、ソラちゃんが作った森の木で作ってくれた。
もうね、みんな地面に座り込んで、ソラちゃんなんて、ドレスを汚しまくり。
同年代の、3歳くらいの子たちと遊ぶのが凄く楽しいんだよね。
「パパのおちろくらいの、おおきのちゅくりたいな」
それって、ソラちゃんが小さな片手で持てるくらいの積み木が、いくつくらいいるんだろうね?
成長はしないし寿命なんてないに等しいから、時間だけはたっぷりあるけども。
「ソラちゃんって、おしろにすんだことあるの?」
「だってあたち、おうじょだもん!」
「え~? おうじょさまは、どろんこになってあそばないんだよ?」
その通りです! ここの子たちは小さいのに分かっていらっしゃる!
――おちろのなかで、おとなちくちてたら、たのちくないよ?
うん、そうなんだけどね。それ、アリアちゃんに言ったらダメだよ? きっと、アリアちゃん泣いちゃうよ。
「あの~、聖女様?」
遊んでたら、ベエルグラッドさんが声をかけてきた。
「とりあえず、兵士50人ですが出兵の準備ができたのですが、戦争開戦は今日でしたよね?」
――わしゅれてた!
だと思ってたよ。
で、パパ達と、ベエルグラッドさん達と一緒に、戦場予定になるだろうと思われる高台まで来たんだけど……。
なんかね、目を疑う光景が広がっていたよ。
あれあったでしょ? ソラちゃんが空から落とした大きな氷の塊。
あれが融けてね、水が溢れかえって乾いた大地に広がって、それが泥になって広大な深い沼池になって、そこで敵の兵士さん達が泥に埋まって溺れてた。
なんか救助活動してて戦争どころじゃない雰囲気なんですけど。
――ねらいどおりだね!
うっそだぁぁぁ! ほんとは偶然なんでしょ!?
――どろあしょび、たのちしょうだね!
絶対に遊んでないよ!?