第162話:しょれは、たべれにゃいの! の、ひ!
屋敷の応接室に案内されて、そこで戦争になった経緯を領主のベエルグラッドさんに詳しく説明したよ。
「う~ん……それが聖女様のご意思ならば、我々もそれに従いましょう」
いいのかそれで?
相手の国の理由が、豊かになった国が許せないっていうもので、こっちの理由が、からだくちゃい! だぞ?
この国の歴史に、からだくちゃい戦争が後世にまで残っちゃうよ?
「国王陛下にも伝えたいですが、早馬を出したくても、水不足になってから所有している馬は隣領に預かってもらっている状況でして……」
「なるほどの。では、妖精を伝令に飛ばそうかの」
「速い子がいいわよね? 風の加護を受けし子よ、出てきなさい」
トレンティーさんが手の平を上に向けると、そこから体長10センチほどの妖精が飛び出してきた。
(戦争ね! 皆に伝えてくる~!)
元気にそう言うと、あっという間に飛び立って見えなくなった。
「さて、これからどうなさいますか? 夕食までゆるりとこの屋敷で休息なされますか? そのままこの屋敷にてご宿泊されてもいいですが?」
「いや、街の宿に泊まろう。食事も街で食べるからの。なるべく、お金は市井に回さないとの」
へ~。パパって、そんなことまで考えてたんだ。確かに、領主がお金を貯めこんでも、領民が貧しかったらダメだもんね。
――やっぱり、パパはしゅごいね!
ね~!
てことで、領主の屋敷からお暇させてもらった。
屋敷の門の外まで出ると、パパが大きく息を吐いた。
「ふい~! 貴族の食事ってあれじゃろ? テーブルマナーなんて知らんからな!」
ちょ!? パパ?
「泊りってあれでしょ? 豪華なベッドにソラちゃんがベッドに水溜まりを作っちゃう可能性が……」
「ここのメイドさん達に、ソラ様の後始末をさせるのは申し訳ないですよね……」
トレンティーさん、ジェノさん、毎朝ベッドを濡らしちゃってごめんなさい。
――ねりゅまえに、といれいってりゅのにね。
うん……。なかなか、オムツから解放されないよね。
オムツに吸収されないくらい、一晩で何回もしちゃってるってことだよね? せめて一晩の回数を減らさないと。
――ななしゃいになったら、がんばりゅ……。
今日からでも頑張ろうよぉぉぉ!
屋敷から離れ、街のほうまでいくと、ソラちゃんの魔法で元気になった人たちがせっせとサトウキビを根元から収穫してた。
道までびっしりと生えちゃってるから邪魔ですよね。まともに歩けないし。
「ここが食事処のようじゃな」
背の高いサトウキビに視界を邪魔されないくらい巨体のパパが、食堂の看板を見つけたみたい。
パパに抱っこされているから私にも見えた看板には、フォークの絵が描かれていた。
どうしてフォークだけで、ナイフとフォークじゃないのかというと、平民はフォークなんて使わないからだ! ステーキなんて、基本、フォークでぶっ刺してかぶり付き!
――ジェノしゃんが、きってくれりゅからじゃないの?
それね、ソラちゃんがテーブルマナーを覚えられない要因の1つだよ。過保護の弊害ってやつだね。
――ないふ、でてくるかな?
出てきたら練習してみようか? 平民がナイフを使わないって確認もできるしね。
「すみません。今は食材が無くて休業中なんですよ。あ、サトウキビの丸かじりならありますけど……」
そういえばそうだった! 畑が干ばつで全滅して配給まで受けてるんだから、料理する食材がないのは当たり前だったよ!
「ないふ、たべれにゃいの?」
もとから食べ物じゃありません! ごっちゃになっちゃってるよ!
「パパ! おろちて!」
「おお? うむ」
凄い剣幕にパパも戸惑ってる。
で、降ろしてもらったら、サトウキビが抜かれ、凸凹になった道に両手を着いた。
その様子を見た街の子供たちが集まってくる。
なんか、大事になってますが。
「にんじんとぴーまん、いやいやの!」
なんですかそれ? あ、はい。いつものですね?
「『はーべしゅとぶれーちんぐ!』」
周囲の道が光輝いて、ニンジンとピーマン以外の野菜が道から生えてきた。
おお! と歓声が上がり、ソラちゃんは腰に手を当て、胸をそり返しどや顔。ただし、自分の嫌いなものを除外しているところがちょっと残念。
「あ、ソラ様。ニンジンとピーマンは持ってきているので、それも入れて料理してもらいましょうね」
「えう!?」
ジェノさん……どうしてピンポイントでそれだけ持ってきているんですか?
て、ああ! 泣かないでソラちゃぁぁぁん!