第161話:がんばったにょに、おあじゅけ! の、ひ!
1週間後、開戦。
まあ、こうなっちゃったのは仕方ない。
相手は最初からやるつもりだったろうしね。
――どちてしょんなことわかるの?
うん? だって、1週間っていう短い期間で進軍開始するなんて、最初からやるつもりで国境に軍隊を集結させてるからでしょ?
――こっちは、しゅるちゅもりなかった!
うん、まあ、あの会談で止められれば良かったんだけどね。ソラちゃんが水をかけるから。
――でへへ。
「ソラリスや。これからベエルフェッド君の領地の街に行くぞ」
パパ達はすでにテーブルセットを片付けて、グレイプニールの馬車を召喚してた。
「しゅくふく、ちなくていいの?」
ジェノさんに抱かれ、馬車に乗り込みながら聞いてみる。
森を少し回復させて、穴を掘っただけで終わっちゃったからね。
祝福暴走以外では、初の失敗かな?
「ここが戦場になるじゃろ? ソラリスがせっかく祝福で豊かにした土地を荒らされたら」
「ふふふ……その時は、精霊女王の名の下に、全精霊、全妖精をもって」
「私たちエルフ族、いえ、魔王国の全戦力を投じて相手の国を叩き潰します!」
3人の体からオーラが立ち昇る。
みんな平和思想だったはずだけど、ソラちゃんが絡むと好戦的になるよね……。
ていうか、この世界が滅んじゃう戦力はさすがにやめてあげて!
馬車を爆走させて、街に着いた。
防壁の門の前には、痩せた門番の兵士さんが座り込んでいる。
この干ばつによって、圧倒的に食料不足だね。
――とちゅうも、なにもなかったね。
林も畑も干からびてたね。これ、街の人は大丈夫なのかな?
「門番は……動く元気もなさそうじゃな。素通りで領主の下に行かせてもらうかの」
馬車から降りて、歩いて門を抜ける。
門から伸びたメインストリートは、普段は人の往来が激しいはずだけど、人の姿はどこにもなかった。
動く元気もなく、家の中に引き篭もっているのかな?
ていうか、最悪な話、水不足で脱水症状……まさかの手遅れなんて……。
そんなことを恐々と考えているうちに、領主の館まで到着した。
正面の門は開け放たたれ、そのまま中に入ると、予想しなかった光景が目に飛び込んできた。
「まだ水はあります! 慌てず並び、1人1杯を飲んでください!」
屋敷の中庭に溢れる人々。
その人たちに水を配っているメイドさん。
メイドさんの後方には、水瓶が沢山並び、テーブルには水が入ったコップと、山盛りになっている干し肉があった。
「なるほどの。配給の時間で、街には人が居なかったのじゃろうな」
ほぼ全ての領民が領主の屋敷に来ているのかな?
平民に領主が自ら屋敷を開放して配給するなんて、ベエルフェッド君の父さんは凄く立派な人物だね。
と、配給の様子を眺めていたら、少しだけ豪華な服を着た痩せ細った男性が近づいてきた。
「よく来てくれました! 私はこのフォルグナ領を治めているベエルグラッド・フォルグナと申します!」
「ソラリスのパパじゃ」
「ソラちゃんの保護者よ」
「ソラ様の妻……侍女です。ご子息をソラ様の婚約者になんて言い出したら潰しますよ……?」
名乗ってあげて! ていうかジェノさんが1番酷いよ!?
まあ、纏めると、ソラちゃんの関係者! いいのか、それで?
「しょらりしゅでしゅ! よろちく!」
あ、ソラちゃんにまともに挨拶されて凄く嬉しそう。
「ということで、干ばつが始まった直後から、他領から水と干し肉を買い集め領民に施しているのですが、輸送費もかさみ、野菜も輸送したのですが、届く前にこの炎天下で腐り、民が血と汗を出してまで捻出してくれた税金を無駄にしてしまい、干し肉の塩分が高すぎてますます喉が渇き……」
うわ~、悪循環に陥ってますね~。
塩分の取り過ぎで病気にもなっちゃうし、それを中和する野菜も食べれないと。
「この領の特産品はサトウキビで出来た砂糖なので、聖女様には甘いお菓子を食べてもらいたかったのですが……」
「あまいおかち!」
「そのサトウキビが干ばつで全て枯れてしまいまして」
「えうぅ!?」
――ソラしゃん! いまちゅぐやるにょ!
いや、にょって……。凄く可愛かったよ、うん。
て、うお! 凄い魔力が溢れて練りこまれていってる! 甘いお菓子がそんなに魅力的ですか!?
あ、この浮かんできた言葉を唱えろと?
「『りかばり~!』」
ここに集まっている全員の体が光に包まれて、カサカサだった肌に潤いが戻り張りのあるつやつやお肌に。子供たちのパサついた髪は艶々に。
りかばり~。治癒じゃなくて回復か。
それだけじゃなく、炎天下だった空に雲が広がり、やがて地を濡らす雨が降り出した。
回復って、天候回復も入ってるんだ~。へ~。すご~い。
――まだまだ!
「しゃときびにくわちい、しぇいれいしゃん、でてきて~!」
出てきましたよ。火、水、風、地、光の精霊さん達が。て、多くない? 全員知ってるって? そりゃ長生きしている精霊だもんね。
「みんなのちからをひとちゅに!」
「「「はい!」」」
その力は過剰だと思うんですけど。あ、はい。わたしも参加ですね。
「『は~べしゅとぶれ~ちんぐ!』」
例のごとく、豊穣の光は5人の精霊に増幅されて、出来ましたよ、サトウキビが街中に。この中庭も街の道も覆いつくすほど。建物以外、サトウキビに埋め尽くされましたよ。
「あの……聖女様、野菜も……」
「おかち!」
ソラちゃん、サトウキビから砂糖は、すぐには出来ないんだよ?
――!!
いや、絶望しないで~!
「まあ、野菜畑は明日でもいいじゃろ。あ、そうじゃ、1週間後、この領地で隣国と戦争になるぞ」
「……は?」
パパ! それは軽く言っちゃダメぇぇぇ!