第159話:おとちあな? の、ひ!
さて、氷の塊を眺めていても仕方ないね。
この氷の塊が融けたらどうなるかって大体の予想はつくし。
――ソラしゃん、あちゅい~! のど、かわいちゃった!
そうだね……。
そういえば失念してたけど、お昼ご飯とか飲み水とか全然用意してなかったよ。
――だいちっぱいだね!
うん。本当に大失敗だね。
リュードさんは遠くの空を巡回して飛んでるし、呼んでも声が届かないだろうね。
――うちおとしゅ?
やめてあげて。
――あ、しょだ!
うん?
ソラちゃんが右手を上げて、むふふ~って笑い出したよ。
「しゃわわ~!」
ざぁぁぁぁ。と、頭上からシャワーのような水が降り注ぎましたよ。それを上を向いて口を開けて飲んでるし。
――ちゅめた~い! きもちいいね! にゅれてどろんこになっても、ジェノしゃんいないから、ちかられないち!
全身を濡らしてぴょんぴょん跳ねるソラちゃん。嬉しそうだね~。
でもね? 帰ったら叱られますよ? 濡れるだけなら乾かせばいいけど、泥遊びは止めようね?
……ていうか、この魔法を空高くして広範囲にやったら、雨になるんじゃない?
――にゃにいってるにょ? しゃわーとあめは、ちがうでしょ! おばかしゃんでしゅね~。
……キレちゃダメ! キレちゃダメ! わたしは理性! 理性がキレちゃダメなんです!
すみませ~ん! 誰か代わりに説明してくれる人はいませんか~?
うん。雨を降らすのは諦めた。
で、枯れた森のところまで来た。
――まじゅは、もりだけ?
うん。祝福の魔力を森だけに集中して復活させて、その森を基準に少しずつ広げていこう。
雨が降らないとまたすぐに枯れちゃうかもだけど、精霊と妖精に森に住んでもらって、水精霊に頼んで雨を降らせてもらおう。ていう作戦。
「『はーべしゅとぶれーちんぐ!』」
光が森に降り注いで、森の大地は深い草が茂り、木々は葉を付け、枯れていた木は瑞々しさを取り戻していった。
――しぇいこう!
うん。第一段階はこれでいいね。
そして、第二段階に行くために、因子開放して走って森から離れたひび割れた大地に向かった。
距離としては森から100メートルくらい?
その位置で立ち止まる。
――ソラしゃん、ひび、はちりにくかったね。
だね~。何回も躓きそうになっちゃったもんね。
――ひびって、ふかいのかな?
あ、そっか。地表だけじゃなくて、深さによっては、込める魔力量を調整しないとだね。
――ほってみよ~!
「ちぇかじゅのだ!」
世界樹の枝を、槍の穂先みたいな形に変えて。
「いんちかいほ~! じゃくじゃく!」
穂先をスコップ代わりにしてざくざくと掘る。
いや、だからね、神話級の世界樹の枝をそんな使い方しちゃダメだって……。
――ほかにどうぐないでちょ!
……お得意の魔法で……あ、いや、なんでもないです。邪魔してごめんなさい。
世界樹の枝と因子開放の力で、あっという間に5メートル四方の穴が掘れたよ。まあ、土が乾いていてボロボロで柔らかかったっていうのもあるけど。
因子開放したまま、ジャンプして穴から出て少し離れたところで休憩していると、何か森から1人の男が馬に乗って走ってきた。
軽鎧に身を包み、腰には剣を差して、背中にはどこかの国の国旗みたいなものを立てている。
そして、その男は走り抜けながら叫んできた。
「そこの幼き村娘よ! そなたの国に宣戦布告しに来た! 住んでいる村に伝えよ!」
ん? わたしの国ってことは魔王国? 住んではいないけど、魔王国に村って、獣人の村しかないよ?
「逃げるなら今のうちだ――ふぁぁぁ!?」
……ドスン!
あ、ソラちゃんが掘った穴に馬ごと落ちた。
――うめにゃいと、きけんだね!
埋める前に助けてあげよ?