第157話:あたちは、にんきもの! の、ひ!
「おはようございます。ソラちゃん、ジェノ様、アヤネさん」
「おはよ、アリアおねえちゃん! ラチカしゃん! ……けんのおねえしゃん?」
朝の通学路。お城の前でアリアちゃんと挨拶を交わす中、ジェノさんに抱かれながら頭をこてんと傾げる。
ソラちゃんが、けんのおねえしゃんと言ったのは、護衛の女騎士さんのことだ。
「ソラ様、本日の護衛騎士、セレスです」
にっこりと微笑んでくれるけど、実は初対面じゃないんだよね。
アリアちゃんの護衛は、毎日違う人が担当しているらしい。
だいたい5人くらい? 誰が護衛するかは、毎朝じゃんけんで決めているとか……。
毎日違うから、当然のごとく、ソラちゃんは名前が覚えられない。わたしも自信がないよ。
もちろん、全員が女性だ。
王族も貴族全般も、女性の主に男の従者が付くことはないらしい。
従者といえば、主の世話をするために部屋で2人きりになることがあるでしょ。
だから、その……あれだ、婚姻前に傷者になっているなんてことがあったら、一大事なんだよね。
――はちってころんで、けがちてるけどね!
傷者ってそういうことじゃないんだけどね。ソラちゃんはさ~、もうちょっと淑女としてね、落ち着こう?
――ジェノしゃんがおいかけてくるもん!
逃げなきゃいけないようなことをするからでしょ……。
――ぷぅぅぅ!
「ああ! 何故か私を見て頬を膨らませてくるソラ様が可愛い!」
ジェノさんが頬をすりすりしてくる。
女の従者さんでも危ないかもしれない……。
「え! ソラちゃんどんな顔してるの?」
と、アヤネちゃんも正面まで来て見てくる。
アヤネちゃんのキツネ耳がピコピコ動き、キツネ尻尾がふさふさ揺れる。
前を行くアリアちゃん達3人も、ちらちらと後ろを振り返ってくる。
えっとですね、堂々と見てもいいですよ?
そんな通学風景の日常を過ごし、校門まで辿り着いた。
校門前には、沢山の女子学生たちが並んでて。
「ソラ様、ジェノ様! 今日もよろしいでしょうか?」
「あい!」
と、ソラちゃんが返事をすると、ソラちゃんがジェノさんから女生徒に受け渡され、ギュっと抱きしめられる。
「甘い匂いがして癒されますわ!」
今朝も食べてきたマジックアップルの匂いだろうか? いい加減食べ過ぎて体から匂いが漏れているかもしれない。
「今度は私ですわ!」
順番に受け渡されて、足プラ~ン状態でギュってされて、ギュってされて、リレーされていく。
これ、昨日から始まった行事? なんだよね。
聖騎士と天使を撃退したっていう話が広まって、ソラちゃんの人気が爆発しちゃった。
まあ、元々人気はあったんだよ。昼食時にソラちゃんにあ~んの権利を賭けて争いが起きたり、授業抜け出しを見て見ぬ振りをしてくれたり。
でもね、いろんな人に抱かれたら、さすがにソラちゃんも不機嫌になるかも……。
――ソラしゃん! しゃっきのひと、ジェノしゃんよりも、おむねおおきかった!
え~。そうだったかな~?
なんか、ご機嫌だったよ。
そんなこんなで、やっと教室に入ると、目の前にベエルフェッド君が立っていた。
「あの……ソラちゃん」
「ちかたないな~」
と、両手を上げて抱っこちてのポーズを取る。
でも、それはジェノさんから抱き上げられて止められた。
「あなた、ソラ様に抱っこをお願いするなんて、何を考えてるんですか?」
「え? 俺は声をかけただけですけど」
ジェノさんの殺気に当てられて、凄い汗が流れてますよ。
うん。ベエルフェッド君は名前を呼んで声をかけてきただけだもんね。君は悪くないよ。
――かんちがい、ちちゃったね!
うん。とんだトバッチリを与えてしまいましたね。
「まったく! ソラ様を抱きたいなら、校門前に並んでください」
「え?」
それだったらいいらしい。
ただし、全女生徒から白い目で見られるという試練付き。
「そうじゃなくて! 俺の領地が雨が少なくて干ばつ被害にあって、農作物が壊滅状態みたいなんだ! お願い! 助けてくれないかな?」
あらやだ。ここまでのコメディー感をぶった切る、真面目な話だったよ。