第153話:しぇいけん! おまけちゅき! の、ひ!
さて、目の前には瘴気を纏って宙に浮かぶ天使。
白い翼を広げているけど、瘴気を纏い、その言動からしたら天使じゃなくて悪魔だよな。
まあ、女神の眷族ってことで天使なんだろうけど。
――ソラしゃん、やっちゃう? だいじょぶ?
うん。大丈夫だよ。ソラちゃんの中に入って支配しようとしてたのには、わたしも業腹だしね。
――ごうはら?
凄くプンプンだよってことだよ。
――しょだね!
プンプンで通じちゃった。まあ、いいか。
ソラちゃんは、宙に浮いている天使を指差して。
「しゅごく、ごうはらでプンプンなんだよ!」
「……同じ意味を並べて言われてもな」
――ソラしゃん!
いや、わたしに怒ってもね。あいつの言う通り、2つとも纏めると、腹が立つって意味だし。
「はらたちゅ!」
「だったらどうす――!?」
どおぉぉぉん!
天使の体が爆炎に包まれる。
ぼ~ん! とか、ちゅど~ん! も一切言わない、完全無詠唱ですか。
それほどまでに、お怒りだったんですね?
が、そんな怒りの魔法でも、爆炎が収まって現れた天使の姿は、ほとんどダメージを受けてない。
「この瘴気の前では、そんな魔法など効かぬ!」
わたしの中では、天使が瘴気を纏っているほうがおかしんだけど。それを自慢するってどうなの?
――ソラしゃん! あれいくにょ!
え? あれって何ですか?
――もぉぉぉ! ぴゅりふけちょちょ! でちょ!
あ、はい。そうですね。
天使に向けて右手をかざし。
「『ぴゅりふけちょちょ!』」
浄化の光が天使に向かって放たれたけど、天使が光の障壁を展開して、浄化の光は障壁で搔き消された。
「ぐはは! 我は大天使グリルチキン! 聖属性の浄化は同属性には効かぬ!」
腕組みをして悠然と浮いている天使グリルチキン。
そういえば、そんな名前だったな。
美味しそうな名前してるくせに、瘴気で普通の魔法は効かないし、浄化も効かないとか、この天使って強敵じゃないか?
――ちぇかじゅのだで、やっちゃう?
いや~、宙に浮いているから、近距離戦もできないよ?
――やってみりゅの!
あ、はい。どうぞ。
「いんちかいほ~! ちぇかじゅのだ!」
「何をしようというのだ? ここまでは届かないだろ?」
うん。どうするつもりなんだろね? わたしも分かんない。
ソラちゃんは、枝を剣に変えて、ぐっと屈んで力を溜める。ドン! と大地を蹴れば、地が弾け飛び、クレーターを残して大空へ舞い上がり。
「――ぐぼぉぉ!」
ソラちゃんの頭が、グリルチキンの腹に突き刺さってた。
グリルチキンは大地にもんどりうって落ち、ソラちゃんは風精霊の助けを借りてふわりと着地して、頭を押さえて転げ回る。
――いちゃい!
うん……痛かったね~。ていうか、剣はどうしたのかな? フェイントかな? わたしもグリルチキンも騙されたよ。
そういえば、剣か……。勇者に目覚めたわたしだったら、聖剣を使いこなせるのかな?
リンバーグさんは、ただ鞘から抜けるだけ。真の勇者のアデルが手にしたら、剣が光ってた。
うん。呼んで確かめてみよう。
ソラちゃん、代わって。
――あい!
「あたちのもとにきて! しぇいけん、ほーりーしょーど!」
聖剣ホーリーソード……。名前がそのままの意味じゃん。誰だよ、名前つけた奴は?
で、グリルチキンがのそりと起き上がろうとしているときに、その背後からキラリと光を反射して、空を滑空してやってきましたよ、聖剣が。
「うわぁぁぁ!」
剣の柄を握りしめ、絶叫を轟かせたリンバーグさんと共に。
ちょうど立ち上がったグリルチキンの後頭部に飛んできたリンバーグさんの膝が当たり、グリルチキンはその場で半回転して頭から地面に突き刺さり、聖剣を掴んだままのリンバーグさんは、わたしたちの前まで腹を地面に擦り付けながら着地。
「し……死ぬかと思った……」
――ゆうちゃのばぁぁぁか!
ほんと馬鹿だね。どこから飛んできたの? すぐに手を離せばよかったじゃん。