第151話:みんな、ちあわしぇにね! の、ひ!
空気を変える力が無いことを自覚したわたしは、恋話をおわらせるために別世界であったことを説明したよ。
舌っ足らずの幼児言葉でどこまで理解してもらえたかは分かんないけど。
「グランゾの話になると、途端に興奮して説明も幼くなるわね」
うん。興奮しちゃうと、思考能力まで幼くなっちゃうみたいです。
興奮した心を落ち着けるため、木のコップを両手で持ち、くぴくぴと中に入っているリンゴジュースを飲む。
「本当にソラちゃんと私は同一人物なのですね……」
「性格の違いは,育てられた環境が影響してるのか?」
ジュースを飲むわたしの姿を、アデルとナディアは温かい目で見てくる。
これはあれだ、保護者の目だ……。
て、まあ、それはどうでもいいけど。
「俺の因子があるから、初めて会った時から他人とは思えんかったのか」
「むふふ~」
この世界でもわたしは娘になれそうだね!
……って、そうじゃない! わたしはどうしてここで暮らそうとしてるの!?
「しゅぐ、かえらにゃいと!」
「そうじゃな。もう1人のソラちゃんが操らているとしたら、向こうの世界が大変なことになるかもの……」
「異世界ゲートを作るために、世界樹の力を借りましょう。私とグランゾ、聖女と勇者の力を合わせれば、ゲートを開くことも出来ると思うわ」
「しょれでいこ~!」
トレンテーさんの転移って、木と木があれば出来るんだって。
つまり、出発点が魔王城にあったマジックアップルの木。到着点は、もちろん世界樹。
目の前には、壁のような樹木がど~んと雲より高くそそり立ち、周囲は神聖な空気に満たされている。
元の世界を含めても、世界樹には初めて来た。
「ここに人族が来たのは、400年ぶりかの」
「今の他種族殲滅思想に陥った人族は近づくことさえ出来ないでしょうね」
あ、そっか。元の世界ではパパに聖女の加護がついたことによって、パパに敵意を持っていた人族の洗脳が全て掻き消されたんだった。
この世界ではパパに聖女の加護を付けるのは難しいけど……。
ここには、世界樹と、わたしと成長したソラちゃん……ナディアが居る。
世界樹の助けを借りて、浄化を世界中に届けることが出来たなら……。
「ナディアしゃん! ぴゅりふけちょちょを、いっちょに!」
「え? あ、私とアデル様の洗脳を解いた、浄化魔法ですね?」
「あい!」
頷いてくれたナディアと共に、世界樹の幹に手を添えた。
「どうじに!」
「はい!」
呼吸を合わせて!
「ぴゅ……ぴゅりふけ……ちょちょ……」
「ぴゅりふけちょちょ! ……ナディアしゃん?」
「これ、恥ずかしんです!」
ナディアしゃんは、ソラちゃんとはべちゅじんかもちれない!
まあ、もっとも、本来はピュリフケーションだけどね。
みんなからの励ましもあり、ナディアも覚悟を決めて。
「「ぴゅりふけちょちょ!」」
唱えた瞬間、目の前が光に溢て、光が収まると、雲に覆われていた空は青空が広がり、太陽の暖かな光が大地を照らしていた。
それは、天候結界が必要なくなったということなのかな?
とにかく、この世界でわたしが出来ることはここまで。あとはこの世界の勇者と聖女に任せるしかないね。
「さて、今度はみんなの力を合わせて、この小さな救世主をあるべき世界に送り届けよう」
パパはそう言いながら、最後に抱き上げて優しく頭を撫でてくれた。
「世界樹よ! 俺たちの力を使い、この者をあるべき世界に送り届けよ!」
パパの魔人の力が、トレンテーさ……トレンティーさんの精霊女王の力が、アデルの勇者の力が、ナディアの聖女の力が光となって世界樹に吸い込まれていって、世界樹がそれに応えるように光輝き、根元に光のゲートが出現した。
「さあ、元の世界にお帰り」
「あい!」
一歩を踏み出し、ゲートを潜り……。
「あ、しょだ。ナディアのにゃまえって、だれがちゅけたの?」
「お父様……いえ、教皇です」
「やっぱり! しょれ、ほんとうのにゃまえじゃないよ! ほんとうのにゃまえは、しょらりしゅ!」
「しょらりしゅ」
「もぉぉぉ!」
「ごめんなさい! 分かっててからかっちゃいました! 私の名前は、ソラリスです!」
「あい! アデル! しょらりしゅを、ちあわせにちてあげないと、だめでしゅよ!」
「ああ、もちろん! これまで、俺が勇者としてやってこれたのは、君がずっと中に居てくれたおかげだ! ありがとう!」
「あい!」
成長したソラちゃん。わたしだったアデル。2人とも幸せになってね!
そして、みんなの微笑みを受け、わたしはゲートに吸い込まれていった。
シリアスのようでシリアスじゃない……半シリアスだな。
――はんぶん、おちりだしゅの?
出しちゃだめぇぇぇ!