第15話:ソラしゃん、まいごの……ひ!
いつもの如く、騒ぎを起こしながらゆるりと日々は流れて、ここへ来てからそろそろ1年は経つんじゃないだろうか?
それだけ経てば、感情だって成長したっていいはずなんだけど、そんな思いも虚しく、今日も騒ぎを巻きおこす!
絵本を読んでくれていたジェノさんが、おもむろに立ち上がった。
「ちょっと、トイレ行ってきますね。大人しく待っていてくださいね?」
「あい!」
シュタっと右手を上げて元気よく返事をする。
ジェノさんはにっこり笑顔を向けてから、部屋を出ていった。
「むふふ」
こらこら。何をするつもりだ?
――おしょと、いこ。
あの元気な返事はどこに行ったのかな?
まあ、わたしも幼児の狭い行動範囲に退屈してたところだけど……。
うん。部屋にドアが無いのがいけないんだよね!
てことで、主導権を完全に感情へ。
廊下をパタパタ走る。
多少、手足が長くなり、筋肉も発達してきたからか結構速い。
そして、辿り着いた城の外。
「しょら、あおい」
晴天である。
さて、今日までは、外に出るのはパパとお散歩するときだけだったんだけど、今は1人。
お城の周りを回って、中庭まで行って戻ってくるっていうのが散歩コースだったんだけど、どうするのかな?
「こっち、なに?」
はい。感情の赴くまま、興味が湧いたところへ駆けていきますよ~。
お城の正面は、大きな道になっていて、道の両側に街路樹が植えられている。
その道の先に興味がでたらしい。
当然、わたしもその先は知らないから、ちょっとワクワクしてきた。
「あ!」
何かを見つけたのか、急に方向転換して茂みの隙間に入り込んでいく。
わたしは道の先が知りたかったんですけど。
興味移りが早すぎません?
「あれ? いない?」
何がですか? わたしは道の先を注視してて何も見えなかったんですけど。
「あれ?」
しゃがみ込んで、茂みの中を覗き込む。
小動物か何かかな? 走って追いかけたから、逃げちゃったんじゃないの?
「あっち?」
いや、どっちに逃げたかは知らないよ。
あまり手入れをされてないのか、鬱蒼とした茂みの中に更に入り込んでいく。
その草で出来た茂み達も、当然の如くわたしよりも背が高い。
「あ!」
なんだ! 見つけたのか?
「アップルあった」
見上げた先には、大木に実る沢山のマジックアップルがあった。
魔力の最大値をアップさせるリンゴって、普通に実ってるんだな。貴重な果物だと思ってたよ。
て、あの……さっきまでの探し物はもういいんですか? そうですか。
う~ん。このわたしの不完全燃焼感。興味が多いことはいいんですけどね。
もうちょっと、こう……1つの物事を完結させてですね……。
「おなか、しゅいた」
うん。いっぱい動いたからね。
「ここ……どこ?」
はい?
あれ……緊張と不安な感情が広がってるんですけど。
背の高い茂みで周りが見えないしね。
……まさか、迷子ですか?
「うわぁぁぁん!」
――ソラしゃんのばかぁぁぁ!
わたし!? わたしのせいなの? ていうか、心の中で直接ばかって言ってくるの止めて!
「そぉぉぉぉらぁぁぁぁりぃぃぃすぅぅぅ!」
ど~ん! て、パパが空から降ってきた!
「パパァァァ!」
「おお! ソラリス! 居なくなったと聞いて心配したんじゃよ! よかった! 城から泣き声が聞こえるくらいすぐ近くで!」
すぐ、近く?
抱き上げられてパパの首にしがみつくと、目の前にお城が見えた。
知ってるか? 幼児って、狭い行動範囲で迷子になるんだぞ。