第147話:わかれちゃった! の、ひ!
さて……。
この場にいる全員の洗脳は解けたが、これからどうするか。
「ナディアは、魔王を倒した後はどうするつもりだったんだ?」
「私は……枢機卿のご子息と婚約することになってました」
「そうか……」
幼いころからの洗脳教育か、瘴気による直接な洗脳かは分からないが、それは本人の意思はどうなってるんだ?
別世界でナディアだったわたしとしては、そうなってほしくないけど……。
なんか、この今のわたしのアデルの胸が苦しいんだが。
「勇者アデル様……助けて……ください」
「最初からそのつもりだよ」
泣き出したナディアを優しく抱きしめる。
自分自身を抱きしめているようで、おかしな感じだけど。
まあ、それはどうでもいいが、洗脳が解けたいま、婚約が嫌なんだろう。
アデルの心が熱くなる。まあ、こんな美女を抱きしめてしまったら当然だが。
いや、これは……アデルよ。お前、ナディアに惚れてたのか?
仕方ない。この世界のわたし、アデルと、ナディア……ソラちゃんの幸せを守りにいくか。
わたしは聖騎士達を全員、この場から撤退するように指示を出した。
そして、2人になったのを確認して。
「精霊女王トレンティーさん! パパ……グランゾに会わせてくれ!」
森に向かって叫ぶと、森の木々が左右に割れて、奥からトレンティーさんがゆっくりと近づいてきた。
「あなた、人族なのに私の名前を知っているのね?」
この世界でも変わらないトレンティーさんが目の前に……。でも、わたしが知っている優しく微笑んだ顔じゃなくて、警戒心を持った顔だけど。
「私の名前も、グランゾの名前も人族には伝わってないはずだけど?」
「わたしは……俺は知っているんだ」
やばい。ソラしゃんがちょっと出てしまった。
「……あなた、面白いわね。あなたの中に精神が2人? ……1人は人族よね? もう1人は精霊……いえ、精神生命体……神に近い存在……グランゾの因子をもっているの?」
鋭い。やっぱり分かってしまうのか。て、ちょっと待って。パパの因子があるってことは、完全にはアデルになってないってことか?
「わた……俺は、別世界から来て、アデルの中に……」
うっわ~! ソラしゃんとアデルがごっちゃになっちゃって説明が難しい!
これはあれだ、わたしの中に因子があるのなら、それを見せてやろう!
「因子開放!」
バチバチと体中に稲妻が走り、ポン! と、アデルの中から弾き出され……て、あれ?
見上げれば、呆然とした顔で見ているアデルとナディア。そして、驚愕の顔をしているトレンティーさん。
ん? どうしてアデルが目の前に? そして、見上げないといけないってことは……。
身長99センチのソラちゃんになっちゃってる!
「アデル様の中から飛び出してきた……」
うわ! と、とりあえず、自己紹介だな! 右手を開いて、左手は人差し指だけ立てて。
「あたち、しょらりしゅ! ろくしゃい!」
ちっがぁぁぁう! そうじゃないだろ!
「「かわいい!」」
「むぎゅ!」
トレンティーさんとナディアに、左右から抱きしめられてしまった。
ていうか、ナディアからしたら、過去の自分なんだが。
まあ、説明しないとね。
「あたち、べちゅしぇかいからきた、なでぃあにゃにょ!」
「なにょにょ?」
……。
「「やっぱりかわいい!」」
「むぎゅ~!」
どうちてこのしゅがたににゃると、ようじことばになっちゃうの?!
――ソラしゃん、わかれて、でてくりゅの、よていより、はやくにゃい?
ごめん。シリアスが苦手で……。
――がまん、できなかったでしゅか~?
でしゅ~!