第141話:みんな、まけじゅぎらい! の、ひ!
「待て~! 捕まえちゃうぞ~!」
「「きゃ~」」
広い平原で、男たちの手から逃げ回る。
あ、いや、別に襲われているわけじゃないよ。
泣いちゃって大人しくしょんぼりしてたら、騎士の比較的ハンサムな青年のエリックさんが、追いかっけこしようと提案してきて、今それをやってる。
アリアちゃんはさすがに参加してないけどね。あの子、本物の淑女だし。
アリアちゃんはラチカさんと、テーブルをセットしてお茶を楽しんでいる。
「平和ですわね」
「はい。グランゾ様たちが先行して、周囲のモンスターを狩ってくれていますからね。ですが、この光景は、追いかけっこと知っていなければ、幼女を追いかけまわす変態……案件ものですね」
なんて言っている2人の元に突撃~!
必殺、テーブルの下通り抜け~!
「きゃ~! ちゅかまらないもんね~!」
「く! ちょこまかと!」
と、騎士さんも背を屈めてテーブルの下に。
「「きゃぁぁ!」」
轟くアリアちゃんとラチカさんの悲鳴。
2人は慌てて立ち上がる。
「何してますの!」
「座っている女性の股を覗くなんて!」
パン! パン! と、ラチカさんによる往復ビンタの音が3回響き、3人の騎士さん達は、両頬を真っ赤に腫れ上がらせて正座させられていたよ。
「「なんで俺たちまで……」」
「連帯責任です!」
――たのちかったね。
うん。……騎士さん達には申し訳ないことをした気分だけど。
さてさて、ちょっと遅めの昼食をみんなで美味しく食べた後、ソラちゃんにさり気なく聞いてみることにした。
で、祝福はいつやるの?
――え~。もっと、あしょびたい。
ソラちゃんは幼児である。使命よりも遊び優先。だって、アリアちゃんも居るし、ソフィアちゃんとマリーちゃんというお友達も居るんだからね。
そりゃ~、遊びたいよね。
じゃあ、大人たちが祝福を優先したいのに、どうしてアリアちゃん達を同行させたかっていうと、これが今回の核心の部分。
前回の祝福で、ソフィアちゃんとマリーちゃんの体が反応して光ったっていう現象。
2人に共通しているのは、妖精に祝福されているってこと。
アリアちゃんは、精霊女王のトレンティーさんと、4大精霊の祝福を持っている。
で、今回はその妖精と精霊の祝福の力を借りて、ソラちゃんが大地に祝福をかけるとどうなるか? ていう、実験みたいなものをするんだよね。
さて、ソラちゃんのやる気をどうやって引き出すかだけど……。
ソラちゃん、ここで凄い祝福を成功させると、パパが絶対喜んで褒めてくれるよ。頭なでなでだよ!
――ソラしゃん! しゅぐやろう! がんばりゅ!
ふっ……。パパを素材として出せば、すぐにやる気になる。どこまでパパのことを好きなんだろうか?
――けっこんちたいくらい!
そうでしたね~。うん、知ってた。
アリアちゃんとソフィアちゃんとマリーちゃんが、正三角形の形で位置に着く。
ソラちゃんはその3人の中心に立つ。
ソラちゃんが屈んで~……ジャンプ!
着地してから、ちぇかじゅのだを持った右手を空高く掲げて!
「いくよ!」
毎回思うけど、ジャンプする意味はあるのかな? そのままポーズ取るだけじゃダメなの?
――うるちゃいでしゅよ!
ごめんなさい!
「妖精さん!」
「でてきて!」
「土の大精霊ガイアス様! お力をお貸しください!」
ソフィアちゃんとマリーちゃんからは、体長15センチほどの女の子の姿をした妖精が。アリアちゃんの前には、髭を生やしたジジイが現れた。
『ちなみに、ワシはガイファスな』
「す……すみません」
「アリアおねえちゃんに、おこっちゃだめでちょ!」
『申し訳ありませぬ! ソラ様!』
すっごいペコペコして謝ってくる。ソラちゃんの立場って、4大精霊よりも遥かに上なんだな~。
ていうか、脱線しまくってるね。
――ソラしゃん! いくよ!
はい! いきます!
「『はーべしゅとぶれーちんぐ!』」
ソラちゃんから溢れた光が広がっていき、それを受けた妖精とガイファスさんの体も光輝いていって。
そこで、ある変化があった。
(すごい聖なる力!)
(気持ちいい! 進化しちゃう~!)
妖精さん達の体が大きくなっていって、身長140センチほどの少女の姿になった。
(中位精霊マリアンヌ!)
(中位精霊ソフィアレーナ!)
((超進化! 爆誕!))
スカートの裾を摘まみ、綺麗なカーテシーを決めた。
言葉と仕草があってないけども。まあ、気にしないでおこう。
(ソラ様の豊穣の力!)
(増幅!)
ソラちゃんから出た光が輝きを増していって。
(草木よ! 生い茂れ!)
草が次々と生え、木々が大地より生まれ、草原と森が広がり。
(水よ! 大いなる流れで大地を潤いで満たせ!)
森の中にいくつもの泉が生まれ、流れ出た水が草原で1つになり、大きな川になった。
『その程度かの? グランゾ様には敵わぬが、これくらいしないとの! 大地よ! 躍動せよ!』
大地がせり上がり、2つの大きな土山になった。
(土を盛っただけじゃない! 木よ、覆い茂れ!)
(水よ! 湧き出て滝になれ!)
土山は、木々が茂る滝のある山になった。
『まだまだ! ふんぬ~!』
((負けないんだから!))
気付いた時には、わたしたちは森と山に囲まれて、その森の中の開けた草原の中心に佇んでた。
「あの……農地はどこにあるのでしょう?」
「森の開拓団を組織するしかないですね」
「「「木材は取り放題ですね!」」」
王都に近い領地で、辺境開拓に近いことになってるよ?
――やりしゅぎね!
うん。まさか競い合うとは思わなかったよ。
((ごめんなさい! ごめんなさい!))
『申し訳ありませぬ~!』
謝りながら、す~っと消えていったよ。
「えっと……どうしましょう?」
「森って、馬車が通れる道ないよ?」
アリアちゃんとマリーちゃんが周囲を見回し困惑し。
「そらおねえちゃん、お花いっぱい!」
「こっちも! きれいだね!」
ソラちゃんとソフィアちゃんは、きゃっきゃと草原を無邪気に走り回る。
「「「アリア王女殿下、どうやって帰りましょう?」」」
トレンティーさぁぁぁぁん! 迎えに来てぇぇぇ!
「これで50匹目!」
「うむ。アヤネ、ご苦労じゃな」
「いえ、ソラちゃんも頑張ってますからね!」
「あ、これはソラちゃんの豊穣の光ね」
「「「……て、森が追いかけてくる~!?」」」
「範囲外まで逃げて~!」
「……これは」
「あの子達、やり過ぎたわね。ちょっと迎えにいってくるわね」
「よろしくの……」