第132話:ほんりょ~はっき! の、ひ!
「マグア! ソラちゃんを連れて後方に下がれ!」
ガイウスさんが広場に辿り着くと、そう指示を出してきた。
ガイウスさんの左腕は深く切り付けられ、傷口から血が噴き出している。
フローリアさんも、ローリーさんも、マックスさんも、無傷ではなく、どこかしら傷で血が滲んでいた。
その中でも、特にガイウスさんの怪我が酷い。
「ガイウスさん! その怪我は……」
「私たちが確実に森から退却できるように殿を請け負ってくれたんだけど……」
「はは。大氾濫だと、ここまで来ても意味がなかったかもな。どのみち、この出血だと街までは持たない」
「ガイウス1人置いてくなんてしないさ。ここで少しでもモンスターの数を削ってやる!」
マックスさんが、背負っていた大きな盾を地面に突き刺した。
ここから先は通さないと、固い意志を感じる。
森から出てきた他のパーティも傷は酷いけど、この場に留まってモンスターを迎撃するようだ。
後方の草原に居た冒険者たちも、続々と集結した。
冒険者は総勢30人くらいかな。対するモンスター集団は、軽く見積もっても……すみません。視界が低くて、集団の先頭しか見えません。数を数えるなんて無理です。
「森の中に入っていた冒険者パーティは高ランクだが、負傷者が多くて戦力は半減だな……。対して、モンスターは総勢3000……ÅランクのウォーウルフにボスはSランクのオーガロードか」
3000らしいです、モンスターの数。
『グウオォォォォ!』
「来るぞ!」
さて、ソラちゃん。
――じぇんりょくじぇんかい。
いっちゃおうか! 手加減は不要だよ!
「『いんちかいほ! ちぇかじゅのだ! ちぇかじゅじゅだんと!』」
選択したのは弓。矢を真上上空に放つ!
「『ひーるれいん!』」
弾けた矢が癒しの雨になり、冒険者の傷を癒していく。
「『しゅごのたて、あいぎしゅ!』」
冒険者さん達それぞれの前に、光の盾が浮き出てくる。
どどどど!
地響きを鳴らし、ゴブリンとコボルトの小型種が突っ込んでくる。
冒険者と接敵!
ゴブリンの短剣が振り下ろされ、それを光の盾が自動防御。弾かれたゴブリンが地面に倒れ、その胴体に盾によって反射された斬撃が飛ぶ。
「凄い……反射、リフレクションの効果まであるのか」
そりゃね。最強の盾、アイギスですから。
「あいぎしゅ……聞いたことないが、凄いな」
幼児言葉で【す】が【しゅ】になっちゃうんです。察してください。
ソラちゃんの補助を得て、みんな善戦してたけど、所詮は多勢に無勢。数の暴力には勝てず、劣勢になりつつある。
――ソラしゃん!
うん。後方からの援護はここまでだね。敵の数を減らさないとね。
弓を構える。
わたしとソラちゃんの心を1つにして、浮かんだ言葉とともに矢を放つ!
「『ふれいむあろー』」
ぱしゅん!
光が瞬き、眼前の矢の射線上のモンスターと森が消滅した。
えっと……レーザービーム? 間違っても、炎の矢、ふれいむあろーじゃないよね。ちゃんと魔法の名前言ったよね? 炎の要素はどこにいったのぉぉぉ!
あれか? わたしとソラちゃんが心を1つにしたから、あんな威力になったのか? 回復魔法だと普通? なのに、攻撃魔法だとこうなるの?
これは、モンスター以上に危険だね……。
――どちたの?
ソラちゃん! わたしは剣で接近戦するから、ソラちゃんはいつも通り、魔法を使って! 魔法は全部ソラちゃんに任せた!
――あい!
てことで、一気に集団に突っ込み、剣を横なぎ!
正面のゴブリンを3匹一気に切断! 振り下ろされたコボルトの短剣を半身で構えた剣で受け流し、そのままの回転を利用して横一閃!
飛んできたファイアボールをジャンプで躱して!
「ぼぼぼぼん!」
ドコン! チュドドドォォォン!
ジャンプの最高到達点から打ち出されるいくつもの光の玉が、モンスターを巻き込み地を爆ぜる。
それはもう、絨毯爆撃ですよ。
からの~、両手を着いて着地!
「ぐしゃぐしゃぐしゃ!」
ずご~ん! ドコドコドコ!
地に着いた両手から光の波紋が広がり、無数の土の棘が地面から突出してきて、波紋内に居た全てのモンスターを串刺し。
わたしが倒したモンスター、5匹。ソラちゃんが倒したモンスター、数えきれない……。
ソラちゃんの魔法に逃げ惑うモンスターと、……冒険者さん達。
爆ぜる大地。変わる地形。
あれ? 選択ミスった? どうしてこうなったの?
「ぬお! 凄い魔力を感じるのじゃが?」
「ええ。それに、大地が揺れてるわね」
「……ソラリスがやらしたのかの?」
「ソラちゃんはこの時間学園でしょ? 魔力は街の外からよ」
「そうか……。ソラリスがこの国の大地破壊なんてやらかしたら、さすがに謝らないとじゃからな」
「ソラちゃんは学園……大丈夫よ」
……。
「大丈夫……」
「よね?」