第131話:ちりあしゅな、てんかい! の、ひ!
防壁の外で待機していたギルド所有の馬車で目的地に向かっている。
馬車といっても、貴族なんかが乗る箱馬車と違い、簡単に言うと座席が付いた荷台だね。
盗賊や魔物等の襲撃にそなえ周囲警戒をするため、幌なしの完全オープンタイプだ。
この馬車に乗り込んだのは、マグア君の他に4名。
この4人は、15~17歳の男3人、女1人で1つのパーティを組んでいるらしい。
でね、この4人、マグア君に抱かれながら乗り込んだら、ギョッとしてビックリしてた。
まあ、3歳か4歳に見える幼女が冒険者の馬車に乗り込んできたんだもんね。そりゃビックリするよね~。
「おい、マグア。この子は……」
「あ~、ソラリスちゃん。孤児院の子じゅないけど、知り合いなんだ」
「……しょらりしゅでしゅ。……ろくちゃい……」
――ソラしゃん……こうたいちよ……こうたいちよ。
あ~。人見知りしちゃったか~。
「可愛い! わたしはフローリア! 魔導士よ! こっちの短髪はリーダーのガイウス。筋肉バカのマックス。根暗なローリーよ」
「「「俺たちの紹介酷くね?」」」
「見たままの紹介でしょ? 酷くないよね? ソラちゃん」
うお! こっちに振ってきた! ほら、何か答えないと!
「ひどくない……えっちょ……たんぱつ、ねくら、ばか」
「「「おおい!」」」
名前じゃないほうで覚えちゃった!?
「ガイウスとローリーはまだマシだぜ? 俺なんて、バカだぞ?」
「「ソラちゃんは悪くない。紹介の仕方が悪かった」」
「あはは。ごめんね!」
うん。なんか楽しい人たちだな。
――ソラしゃん! おにくと、ちーじゅ、もらっちゃった!
よかったね~。
人見知りっ子が、食べ物ですぐに懐いちゃう。
食べ物で簡単に誘拐されそう……。
馬車は、森が見え始めた広場で止まった。
森までは500メートルくらい離れた位置かな?
「じゃあ、頑張れよ」
と、御者の男性は馬車をUターンさせて、街へと戻っていく。
ここと街との定期便らしく、決まった時間に迎えに来てくれるらしい。
うん。今日は学園サボリ決定である。
「じゃ、俺たちも森の桟部でモンスターを討伐してるから、マグアも採集頑張れよ」
「うん! モンスターはお願いね!」
お互い手を振り別れる。
あの人たちが周辺のモンスターを狩ってくれて、マグア君は安全に採集が出来るのだろう。
先輩後輩のいい関係が築けているようだ。
よし、わたしたちも。
――もんしゅたーたいじ!
そっち?! いや、ダメだから! 大人しくマグア君の近くに居ようよ!
――ちかたないでしゅね!
怒んないでよ~。森の中に入ったら絶対に迷子になるって~。
「ソラちゃん。近くに居てね。いううこと聞いてくれないと、次は連れてこないよ」
「あい!」
いや、マグア君。次のお誘いなんかしないでください。お願いします。トレンティーさんとジェノさんに怒られちゃうんです。ソラちゃんが裏で引き篭もっている間に、わたしがね……。
長閑な時間が流れ、マグア君の背負うリュックが薬草でいっぱいになり、この時間に飽きたソラちゃんが、そこら辺の草を千切っては投げ、千切っては投げして遊んでいると、草むらからゴブリンが飛び出してきた。
「ぼん!」
『ぐぎゃぁぁ!』
足元から炎が噴き出して、ゴブリン瞬殺。
出オチおつ~って感じである。
「なんか、今日はゴブリンが多いね。ソラちゃんが居てくれて助かってるけど」
そう。実はこれ、数回目の襲撃なんだよね~。
ソラちゃんがたった一言で瞬殺してるけど。
とりあえず、ここに居ても危険ってことで、森から離れ、広場に退避することにした。
もうすぐ、わたしたちを回収するために馬車がくるはずで、その時間に合わせてフローリアさんのパーティも森から帰ってくる予定……なんだけど。
森を見つめていると、
「ちょうちょ! まって~ちゅかまえる!」
森見て! 森! 今ちょっとシリアスなシーンだから!
――もぉぉぉ! あとで、ちゅかまえるからね!
うん……。
まあ、森の中から上空に赤い玉が打ち上ってきた。
それに反応したかのように、森のあちこちから同じような赤い玉が打ち上った。
「モンスターの大氾濫! モンスターピートだ!」
マグア君がそう叫ぶと、リュックの側面に取り付けられた細長い筒を取り外して、筒先を空に向けて、底についていた紐を引っ張る。
筒から打ち出された赤い玉が、ゆらゆらと滞空する。これはどうやら危機を知らせるためのものらしい。
街側の草原からも、同じように赤い玉が次々と打ち上る。
モンスターピートを知らせ合ってるようだ。おそらく、伝言のようにして王都までこの危機が届くだろう。
しばらくすると、複数の冒険者パーティが森から飛び出してきた。
それを追うように、地響きを伴い森全体からモンスターの集団が現れた。
モンスターの大氾濫。
森の手前の草原は、モンスターの集団に埋め尽くされていた。
「なあ、ソラリスが祝福しないでも、友好条約で2年くらい前から妖精たちを使って、大地を少しずつ豊かにしてるんじゃよな?」
「ええ、そのはずだけど……。あまり作物が育ってないわね。妖精たちに聞いてみるわね」
(え~? 大地の修復~? してるよ~)
(ソラちゃんが大好きな花畑!)
(ね~! お花いっぱい!)
(人間の作物畑? そんなの知らないよ~)
「……人間たちには黙っておこうかの」
「そうね。それでいいんじゃないかしら」