第13話:しぇじょ? の、ひ!
幼い子供というものは、たまに意味不明な行動をとるときがある。
今まさに、感情のソラちゃんがそれをやっている。
広い廊下には、両端に等間隔で丸い柱が立っている。
で、部屋を抜け出して、前から歩いてくる人が居ると、その柱の陰に隠れるのだ。
ちょっとだけ顔を覗かせて……またすぐ隠れる。
名づけて、お部屋から出てみよう。見つかったらお部屋に連れ戻されちゃう冒険ごっこ……。
まあ、通り過ぎた人はチラチラとわたしを見てたんですけどね。
「ふふ。みちゅかってにゃい」
見つかってるよ~。知らないふりしてくれてるだけだよ~。
なんだかんだいって、わたしも楽しくなってきてるんだからいいけどね。
ガシ!
「わきゅ!」
急に後ろから抱きかかえられて変な悲鳴でた!
誰かなって思って、頭を後ろに倒して見ると、素敵な笑顔のトレンティーさんだった。
「お昼ご飯食べたら、絵本を一緒に読んでお勉強の時間って言っておいたわよね?」
「あ……あい」
あ~あ。いろんな意味で終了だ。
――こうちゃい!
え? ちょっと! 怒られるときだけ主導権交代って……。
あ~。感情が波1つないわ~。完全にスリープモードになってるわ~。
「うわぁぁぁん!」
とりあえず、泣いておいた。
お昼過ぎの陽気の中、ジェノさんに絵本を読み聞かせしてもらっていたら、感情のソラちゃんがそわそわし始めた。
絵本を読み終わったら、パパに会えるからだけどね。
「もう、ソラ様ったら、そんなにパパ様に会いたいんですか?」
「あい!」
ジェノさ~ん。甘やかさなくていいですよ~。最後まで読んでくださ~い。
――もぉぉぉ!
いや、わたしに怒ってもどうにもならんでしょ。
正面に座ってるトレンティーさんにお願いしてみる?
――どやって?
ちょっと見上げるように顔を見て、泣きそうな顔してみたら?
「うぅぅぅ」
「――っ!」
がばっと後ろに倒れこんじゃって、ごろごろと身悶えしはじめちゃったよ。
「か……かわいい……」
破壊力抜群だな……。
「ちょ! 3歳でそんな必殺技をあみだすなんて、どんな思考能力を持ってるんですかね?」
わたしです。
ま、そんなやり取りがあって、今はパパの膝の上に上機嫌で座っていて、隣にトレンティーさんが座って団欒の時間を過ごしてたんだけど、窓から小さな光が飛び込んできた。
トレンティーさんに近づいてきたその光を、ソラちゃんが両手を伸ばして。
ぱん!
こらこら! 蚊じゃないよ! 多分、妖精さんだよ! 全然届いてなかったけどね!
「ソラちゃん? なんでも手を出しちゃダメよ?」
「あ……あい」
ほら~、怒られちゃった。
「グランゾ。諜報活動していた妖精から、ソラちゃんの情報が手に入ったわよ」
「本当か!? 聞かせてくれんか!」
「一言で言うと、聖女ね。女神の祝福を受けし月の光を宿す聖女が現れるとき、世界に平和をもたらす。ていう伝承が人間達の間にあるようね」
「月の光……この白銀に輝く髪色か」
「ここからがやっかいなんだけど。教会の教皇が、ソラちゃんを手に入れるために、聖騎士団を使って生まれた村を襲ったらしいわよ」
「なぜ襲うのじゃ? 人間達にとっては希望じゃろう?」
「農民の子で地位がなかったことで、強制的に養子にして娘にしようとしたんじゃないかしら」
「それで両親と一緒に森まで逃げて……結果が今……ということか」
わたしがここに居るって知られたら、人間が攻めてくるかも。
なんか、この子の……わたしの運命って重くない?
ねえ、あなたは聖女になりたい?
「しぇじょって、にゃに?」
……卑猥な言葉に聞こえるのは、どうしてだろう?