第128話:おねがい、ちちゃった! の、ひ!
魔力の矢だけだと、5メートルくらいしか飛ばないことが分かった。
射程距離を決めるのは、弓のほうだしね。
ほら、弓の種類にも、短弓とか長弓、複合弓ってあるじゃん? ちぇかじゅのだの弓って、枝がそのまま弓の形になった、玩具みたいな小さな弓だし?
――ソラしゃん? だいじょぶ?
はい! 言い訳ばかりしてごめんなさい!
――ソラしゃん、あっちにとどかしぇたらいいんでちょ?
そうなんだけど……。いい考えあるの?
――まりょくのやって、ねりのじょたいでちょ?
女体? あ、状態か。そうか。魔力を練の段階で矢の形にしたところで止まっちゃってるのか。
――あたちが、まほーにちてあげる!
うん! わたしたちが2人で1人だから出来ることだね!
「いくよ~!」
再び、弓を引き絞って、魔力の矢を装填!
その段階で、ソラちゃんが魔力の矢を魔法に昇華させる!
――びゅん! ざざざざ~!
何のイメージかな? ま、気にしても仕方ないね。それを合図に矢を発射!
光輝いた矢は、何故かわたしが狙いをつけていたゴブリンの遥か頭上に飛んで行って、モンスターの集団も通過して、村の中心の空中で弾けて。
ドパン! ざあぁぁぁぁ!
モンスターの集団全体に光の矢の雨が降り注いだ。
……。ざざざざって、雨のイメージなのね。わたしが名前を付けるとしたら、シャイニングアローレインかな?
光の雨が収まると、モンスター達は光に浄化され、死体も残さず消滅してた。
そこに残って立っているのは、パパ達と、村を防衛していた冒険者さん達だけだった。
うん……冒険者さん達が無事でよかった。さっきのあれが、無差別全体攻撃だったら謝っただけじゃすまなかったね!
――でへへ~。おこりゃれるのは、ソラしゃん!
いや! 矢を撃ったのはわたしだけどね! なんか間違ってない?!
まあ、ソラちゃんが敵と味方の区別だけは出来るようになったと喜んでおこう。
――ゆうちゃもこれで。
勇者は味方だからね!?
魔法の矢が弾けた空を、呆然と見上げていたパパに駆け寄る。
「パパ~!」
「おお! ソラリス!」
両手を上げれば、すぐに抱き上げてもらえる。
以心伝心。て、そうでもないか。両手を上げるってのは、抱っこちて! の合図だし。
「さっきのはソラリスがやったのかの? 助けてくれたのはいいが、向こうでみんなを守れと言ったはずじゃが?」
「ひゅ~ひゅ~」
口笛で誤魔化す……って、吹けてないよソラちゃん!
と、パパと和んでいると、ばあちゃ達も村まで来た。
「あらあら!」
ばあちゃは、村の防衛をしていた冒険者さん達を見て駆け出して行った。
その後をヒドイメアーウさんが追従していく。
「マナファリス様、私も回復魔法を少しだけ使えます!」
パパ達は無傷だけど、人族の冒険者さん達は戦い慣れているといっても、無傷ってわけじゃないよね。
まあ、ソラちゃんが回復魔法をかけるほどの怪我じゃないみたいだから、ここは2人に任せましょう。やっとヒドイメアーウさんが役に立ってるから、名誉挽回させてあげないとね。
冒険者さん達の治療も終わり、避難していた村人さん達も集まって、いよいよ土地に祝福をかけるときが来た。
よし、ソラちゃん、いくよ~。
――あい!
「『はーべしゅとぶれーちんぐ!』」
体から光の柱が立ち昇って、さらに、マリーちゃんとソフィアちゃんの体も光輝いて。
そういえば、マリーちゃんとソフィアちゃんは、花の妖精の祝福があったね。
ソラちゃんの魔法に共鳴したってことかな?
光は上空で畑を含めた村全体に広がり、ゆっくりと降りてきて、大地に触れた瞬間弾けた。
ボッコン! と、村の中の礼拝堂から爆発音がしたけど、なんだったんだろ?
まあ、とにかく、枯れていた畑は生命力を取り戻し、すでに野菜が実り、村の中は色とりどりの花が咲き乱れる。
花の妖精の祝福の相乗効果だね。
後で泉のある森を作って、その泉の水で畑の世話をしたら、この村は永い間救われるだろう。
「聖女様! この村は救われました! ありがとうございました!」
「ど~いたまちて……あのね、あのね?」
お礼を言ってきた村長さんに対して、ソラちゃんが後ろ手に組み、腰をもじもじとくねらす。
「どうされました? お礼なら出来る限り聞きますぞ?」
お菓子を要求するの? この村にはそんな高級品なんてなさそうだけど。
「ぴーまんは、にがいからやなの! はんばーぐ、ちゅくって!」
「「「……」」」
ピーマンはなんとかなるかもだけど、畑でハンバーグは無理ですよ!
「グランゾ、礼拝堂にあった女神像が、ソラちゃんの祝福の光で爆発したって」
「ふむ。これがその欠片か。……モンスターを呼び寄せる魔法がかけられとるの」
「あのクソ女神! モンスターの襲撃にソラちゃんを巻き込むつもりだったわね!」
「……まあ、モンスター全てを一瞬で消し去るソラリスの魔法なら」
「モンスターごときが幾千来ようと問題ないわね……」
「俺も……」
「わたしも……」
「「光の雨、怖かったし」」