第115話:ゆうちゃが、じぇんぶわるい! の、ひ!
さて、正面には、鎧を着こんだ勇者が立っている。
鎧といっても、全身を囲うものじゃなくて、胸と左腕と両足の脛を守る程度のもの。
軽装備って言われるものだね。
素材は結構高価なもの。基本は白色で、僅かに銀色が光っていることから、ミスリルかな?
たしか、物理だけじゃなく、魔法防御も高かったはず。
それに比べて、こっちは学園の制服の上から、切り株ワンピースを重ね着しているだけ。
でもね、切り株ワンピースの素材は、世界樹の樹皮なんですよ。
世界樹なんて、神話級ですよ?
――ソラしゃん、ひとりごと、たいくちゅ? あたちとかわる?
あ、うん。主導権はわたしでいこっか。そのほうが被害が少ないだろうしね。
でも、いいの? 勇者をやるのを楽しみにしてたんじゃないの?
――むふふ~。
その笑いは……何か考えてるんですね?
「よし、はじめるぞ!」
おっと、向こうも準備が整ったようだね。じゃ~、最初からとばしていきますか!
「いんちかいほ~!」
パパの因子が黒い稲妻になって体を駆け巡ると同時に、勇者へ向かって踏み込むと、踏み込んだ地面が爆ぜた。
――しゅごい! ちゅよくなってる!
うん。ダンジョンをクリアしたことで、わたしたちもレベルが上がったみたいだね。
「うお!」
あれ? 勇者の驚いた声がしたと思ったら、そのまま脇を通り過ぎちゃったみたいだね。
――ソラしゃん、しゅ~ちゅ~ちないと!
集中したいからちょっと話しかけないでほしいな。
――むぅぅぅ!
ちょっと拗ねちゃったみたいだけど、仕方ないよね?
てことで。地に着いた足に力を込めて、くるっと方向転換……したら、目の前に勇者が迫ってた。
一歩踏み込むだけで間合いを詰めてきた?! 体格差って卑怯だとおもいます!
「とらえた!」
大きく振りかぶっている足元を普通にとてとてと歩いて躱す。
当然、勇者の剣は、わたしが居なくなった地面を打つ。
「く! 体格差か? 小さいとやりずらいな!」
お互い、体格差が有利にも不利にもなるってことだね!
「ちいしゃくないもん! ばかゆうちゃ!」
ちょっとぉぉぉ! ソラちゃん! 無理やり主導権を奪ってそんなこと言わないで! 99センチしかないんだから小さいのは事実でしょ!
「隙あり!」
身を屈めての足元を薙ぐ横薙ぎ払い!
それをジャンプして避ける!
――ぴょん!
え?
と、一文字だけの間に、3階建ての学舎の屋根よりも高くジャンプしちゃってた。
あれかな? ぴょん! てやつ……。
――かじぇまほ~で、からだ、とばちた!
なるほど? 風魔法で、自分の体を打ち上げたと?
――しょちて~! 上からぼぼぼん!
周囲から現れた無数の火の玉が真下に撃ちだされて行って、勇者の頭上に降り注いだ。
ま、当然のごとく、ジャンプしただけのわたしたちも、落下していってるんだけど。
この高さからどうやって着地するの? 因子開放してても、この高さから落ちたら死ぬかもよ?
――どちよ! かんがえてなかっちゃ!
ソラちゃん! 勇者の頭くらいのところで、地面に向かって風魔法!
――じめん、きりゅの?
斬ってどうするの?! ほら、わたしを打ち上げた風魔法!
――あい! ……ぴょん!
あ、同じぴょんなんだ? ま、それはどうでもよくて、何とか逆噴射に成功。
地面に風の塊が当たって押し戻される作用を利用して、落下速度を無くすことに成功したよ。
で、勇者はというと、左腕の防具から障壁を展開して無事だったみたい。周りの地表はソラちゃんの魔法で吹き飛んで凸凹になってるけど。
そして、この魔法の爆発音を聞いて、ぞろぞろと他の人たちが集まってきた。
その中に、神官服を着た人が。
「ばぁちゃぁぁぁ!」
駆け出して行って、ばあちゃの胸に跳び付くと、しっかりと抱きしめてくれた。
「まあまあ、どうしたのソラちゃん? 大きな音がしてたけど? ……グラウンドが凄いことになってるわねぇ」
「ゆうちゃがぁぁぁ!」
なんか、勇者が全部悪いことになった?!
当然、すぐにバレて、勇者と一緒にばあちゃに怒られました。