第112話:おかたじゅけきょうしょう! の、ひ!
領地を1つ救って、わたしたちは王都に戻ってきた。
他にも村などがあるかもしれないけど、全てを救えるわけじゃない。
でも、街の側には妖精が住む森が出来たし、森の泉はソラちゃんの力が籠った聖水だ。その森を中心に、妖精の助けを借りて肥沃な大地が広がっていくだろうね。
ただし、それはソラちゃんが精霊や妖精に愛されているから出来たことであって、そこに住む人たちが認められたわけじゃない。
今後、その人たちの行いによっては、森の木々は枯れ、泉は干上がり、元の姿に戻っていくかもね。
――ソラしゃん、うるちゃい。おかたじゅけちてるんだから、しゅ~ちゅ~ちて!
ごめんなさい!
てことでね。出先から帰ってきて、玄関ホールに置かれたトランクからお気に入りの服を取り出して、自分の部屋まで運んでいるよ。
トランクから1着持って、とてとてとて……。
部屋に着いたら、その服をドレッサーの前にポイ!
とてとてとて……玄関ホールに戻って、またトランクから1着……。
ねえ、1着ずつじゃなくて、纏めて持っていったら?
――いうだけで、なにもうごかないソラしゃんは、だまってなちゃい!
ごめんね!
……いやいやいや! 今はソラちゃんが主導権を持ってるんだから、わたしは言うことしかできないじゃん!
――じゃ、ソラしゃんがやって!
いいよ。主導権交代ね。
さて、まずは開けっ放しのトランクを閉めて、開かないようにロックもしっかりとかけて。
取っ手をしっかりと持って。
「うっうぅぅぅぅん!」
待ち上らない!
これはあれか! トランクが重い! 非力な幼女だと無理な重さだね。
――なにちてるの~? あたちよりじかんかかってるのに、まだはこべてないにょ~?
イラっときましたよ!
片手でダメだったら、両手で踏ん張って!
「むぅぅぅん!」
ちょっと浮いた! 見て見て! ソラちゃん!
――はこばないと、だめなんだよ?
……そうですね。
なんだろ、この敗北感。わたしはどうしてちょっと浮いただけでこんなに喜んじゃったんだろう?
よ~し! とことんやってやろうじゃないの!
「いんちかいほ」
「ソラ様……」
「あ、あい?」
ジェノさん、ちょっと怒ってる?
ジェノさんはトランクを軽々と持って、がしっと、わたしを脇に抱え込んで、部屋へと歩き出す。
「ジェノしゃん、ちからもち~」
「……」
女性に力持ちって禁句だった?
気まずい空気のまま、部屋まで辿り着き、ジェノさんはクローゼットの前で散乱したドレスの前でわたしを降ろした。
「トランクの中で、綺麗に畳まれてましたよね?」
「あ、あい……」
「それがどうしてこんなにグチャグチャになってるんですか?」
ソラちゃんが引きずりながら持ってきて、最後はポイってしてたから……。
「床に投げっ放しだと、汚れて皺になっちゃいますから、もっと丁寧に扱ってくださいね?」
「だって、しょれ、あたちじゃなくて」
「……」
「ごめんなちゃい!」
あっれぇぇぇ? どうしてわたしが怒られてるのかな?!
ちょっとソラちゃ~ん!
……。
意識を切って逃げてるしぃぃぃ!
――ソラしゃん! ななひゃくぽいんちゃ、いってた!
おお! こんなに評価してもらえて嬉しいね!
――よんでもらえて、うれしいでしゅ!
ここからは、もっと大人にならないとね。
――……。
ソラちゃん? どうして黙っちゃうのかな?