第106話:やられるまえにやれ! の、ひ!
ウルフとゴブリンの集団を倒した後、みんな集合して状態確認をする。
怪我とかしたまま進むのは危険だからね。
「私はフェルノさんに守られて無事でした」
「私も守られましたから、無事よ」
男の子2人は、女の子をそれぞれ守ったと。
「いや、ウルフたちの動きが鈍っていたから何とかなったんだけど」
そう言うフェルノ君の左腕には小さい切り傷があって、少し出血しているね。
「ウルフたちは何ともなかったけど、背後からの凄まじい殺気のほうが怖かった」
ベエルフェッド君が、ジェノさんを恐れている様子で見ながら言う。
ま、あそこでジェノさんが殺気を飛ばして、モンスター達を委縮状態にしてなかったら、アリアちゃん達は軽いケガでは済まなかったかもね。
「ジェノしゃん、みんなをまもってくれたの?」
「そうですよ、ソラ様! 怪我をさせるわけにはいかないですからね。まして、ソラ様に傷をつけようなら、このモンスターを作り出したグランゾ様を殴り倒しているところですね!」
――じぇったいに、あたちはけがちたらだめよ! ソラしゃん!
そうだね! パパはわたしたちが守ろうね!
……なんか、おかしくね?
まあ、そんなことがあってからも、わたしたちは草原を進んだ。
簡単なダンジョンってことで、そんなにモンスターも多くなく、戦闘もほどほどにこなす程度だ。
「『えりあひーる!』」
戦闘は少ないとはいえ、前衛の2人は、後衛に攻撃が行かないように守りながら戦っているから、どうしても傷が増える。
そこで聖女としての本来の役割、回復だよね!
――けがちちゃだめだから、アリアおねえちゃんのうちろに、かくれてないとね!
別に隠れる必要はないと思うけど。
――しょか! けがしゅるまえに、やっちゅけちゃえば!
あ、覚醒しちゃった。
もうそこからは常に因子開放状態。
やられる前にやれ! 少しでも怪しいところに魔法を撃ち込んでいく。
「しょこ! ぼ~ん!」
火の玉が飛んで行って、それに当たった岩が大爆発。
「岩が……消滅しましたわね」
「魔力が底なしだからできることよね……」
「それよりも、ちゃんと魔法名を言ってくれないと怖いんだけど」
うん。わたしも、どんな魔法が飛び出していくか、ちょっと予想できなくて怖いね。
「それは仕方ありませんわ。今まで誰も見たことのない魔法で、威力も先ほどの通りなのですから」
「てことはだ、詠唱を公表して、効果と威力を発表して新魔法として広まったら、魔法名が、ちゅど~ん! とか、ぼ~ん! になるってことか?」
やだ、なにそれ。ちょっとロマンを感じちゃう。
「それは無理じゃないかな」
ちょっと、クロースちゃん、嫉妬ですか?
「だって、ソラちゃんって無詠唱じゃない? 魔法は見れても、ぼ~ん! て言っただけでは発動は絶対に無理よ」
あ、はい。ソラちゃんしか出来ませんよね。
まあ、そんなロマンは諦めて、先に進み……。
『ふぉっふぉっふぉ! よくぞここまで到達したな、若造ども!』
「え? スライムが喋った!」
あ、スラじいだ! もしかして、四天王の1人、スライムのスラじいがダンジョンボス?
『戦闘はここまでじゃ。ここまで来るまでに、おぬし達がどれほど経験を積み、強くなったか? それは今後、外の世界で試すがよか』
「しぇんしぇいこうげき!」
「「「『……え?』」」」
ちょ! ソラちゃん?
「ぼ~ん!」
すらじいぃぃぃぃ! 避けてぇぇぇ!