表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/291

第1話:魔王と出会った日

不定期連載です><

 爆発が起きた。

 電車の中? 学校の教室? または自宅の部屋だったのか、どこに居て爆発に巻き込まれたのかは思い出せない。

 俺は男だったはず。歳は16? 18? ここからすでに曖昧になってしまっている。

 名前は?

 思い出せない……。


 ただ、この爆発で俺の体は粉砕され、死んだことは確実だった。

 俺の意識は徐々に薄くなって、数秒後、完全に闇に閉ざされた。




 暗闇の中で数分……あるいは数年後かもしれないが、俺は奇跡的に意識を取り戻した。

 身体は俺のものじゃないようだが。

 それよりも、俺の意識の中に渦巻く恐怖心は何だ?

 転生した……というのはなんとなく分かる。俺だって小説くらい読んで、そういう知識はあるからな。

 だが、転生って言うと、普通は暖かい家庭で赤子として生まれて、前世の記憶を持ったまま不幸な人生だった過去をやり直すものだろ?

 なのに、目覚めてすぐに恐怖で感情を支配されているのはどういうことだ?


 その答えを求めるため、ゆっくり目を開く。

 その一瞬で恐怖の正体を理解する。

 深い森の中、5頭の狼のようなモンスターに囲まれている。

 いや、囲まれてるんじゃなくて、すでに両足が噛み千切られて……。

 て、うぉぉぉぉ! 転生して数分でまたすぐに死ぬって、どういうことだよ!


 すぐさま両手を前に突き出し、地面を掴み逃げ出そうと。

 て、うん? 腕が短い……手も落ちている葉っぱくらいの大きさしかないんだが?

 しかも、這いずれないくらいの非力。

 これは出血で血が足りないからかもしれないが。

 だけど……どうでもいい。考えても待っているのは死だ。


 俺は、諦めて目を閉じた。

 薄れ行く意識の中で……。


『グルウァァァ――キャイン!』

「ち! 人間が森に迷い込んだと報告を受けたが、手遅れか」

「こっちに大人の人間の遺体を2体確認!」

「……この幼子は……まだ息があるな。脚を食われてるが、止血でなんとか城まで持つか?」


 ――魔王様のもとへ。

 ――助けてみせる……。




 がばっと身体を起こして辺りを見まわす。

 灰色の石で作られた、調度品も装飾もない、そんなに広くない質素な部屋。

 あるのは、俺が寝ていた少し固い、白いシーツだけのベッドがあるだけ。

 そのベッドから降りて……。


「うわ!」


 伸ばした脚が床まで届かずに、転げ落ちた。

 そして、聞いてしまった可愛い女の子のような、うわ! なんて悲鳴。

 明らかに、男の俺の声じゃない。

 問題はそれだけじゃない。脚が届かないって、どんだけ高いベッドだよ! わっはっは……。


 笑ってみたが、俺の中にある1つの感情が、胸をきゅぅと締め付ける。

 この感情は……我慢しろ! 我慢しろ! と願いも虚しく。


「うわぁぁぁぁん!」


 俺の心は冷静だが、ダメだった。

 意識と身体を動かす主導権は俺だが、感情の部分は俺の中に同居する別人らしい。


 なんとか泣き叫ぶ感情を説得して、泣き止むことに成功した。


 すっと、両手を顔の前まで持ってくる。

 短く細い腕。小さい指と手の平。脚は無くなったはずだけど、何故か復活してる。

 そして、下を向くたびに視界にチラチラと入る、ふわふわで線の細い銀色に輝く長い髪。

 うん。脚を確認するときに気付いてしまった……俺、女の子になってる。しかも、3歳くらいの幼女……。




 泣き声を聞いてやってきた牛頭の巨人に抱きかかえられて、長い廊下を進んでいる。

 人ではない。明らかにモンスターだ。

 泣きたい、という感情を必死に押さえつける。


 素っ裸だった俺は、こいつに布を巻かれただけの姿だ。

 幼女に着せる服なんてないのは分かるが、布だけというのは……ま、裸よりはマシだけど。


 しばらく廊下を進み、大きな扉を開けて中に入った。

 大広間になって入りらしく、床には細長く赤い絨毯が階段になっているところまで続いている。

 その階段の上には、大きな椅子に2メートルは超える大男がどっしりと座っていた。

 その左右には、2人ずつ、計4人の異形なるもの達。

 位置的と雰囲気から、どっしりと座っているのは恐らく……魔王。

 

 階段の少し手前で牛男から降ろされ、自分の足で立つ。


「脚は治ったようじゃな」


 重く低い声が響く。


 そう声を発しながら、ゆっくりと立ち上がり、階段を降りてくる。

 目の前に止まった大きな魔王を見上げる。

 俺の背が小さいからか、威圧感が半端ない。

 その威圧感に耐え切れず、胸の奥がきゅぅぅとなる。

 いや、ちょっと待て。この状況で泣いたらさすがに殺される。


「う……うわぁぁぁん!」


 やっちまった!


「うお! どうして泣くんじゃ! お前たち、どうしよどうしよ!?」


 ……おい、魔王よ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ