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やり直しを知らない令嬢には2度と破滅の未来は訪れない~「姉さま、死んじゃうくらいなら全部ぼくのモノにしていいよね?」~  作者: 星見うさぎ


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03_こんな世界は、間違っている。

 


 セレナ。




 セレナセレナセレナセレナセレナ────


「うわあぁあああ!!!!!」


 セレナ!!!!!



 自分でも信じられない程の絶叫も、わけのわからない歓声にかき消される。

 麻袋がその姿を隠しているけれど、ごとりと音を立てて落ちたそれが、これは現実なんだと僕に教えている。


 どうして。

 どうして。


 どうして!!!



 こんなことが、許されるわけがない。

 セレナが僕の世界からいなくなるなど、そんなことが……。


 この世界は、間違っている。



 ◆◇◆◇



 両親を流行病で相次いで亡くし、アーステラッド家に引き取られたその日から、セレナはずっと僕の特別な存在だった。


 幼くてまだ何もわからなかった頃はセレナが大好きで、ずっと一緒にいたくて、漠然と、いつかセレナをお嫁さんにできるんだと思い込んでいた。


 だけど、セレナに王太子殿下との婚約話が出て──。



「夢みたい!あの憧れのオルバさまのお嫁さんになれるなんて!」


 花がほころぶような笑顔で喜ぶセレナ。その光景に現実を知った。

 セレナは、ずっと殿下に恋していた。


 僕じゃ、なくて。



 それからはセレナをこれ以上好きにならないように必死だった。


 距離を置いて、優しくされないようにこっちから先にわざと冷たくして、時にはひどいことも言って。


 そのうち、僕に嫌われていると思うようになったセレナは僕を見れば不安そうに表情を固くし、よほどのことがない限り近づいては来なくなった。


 僕も同じようにしたので、周りはみんな僕がセレナを嫌っていると思っている。


 胸が痛まなかったといえば嘘になるけれど、それでもセレナをもっと好きになって、自分の仄暗い欲望を抑えられなくなるよりはマシだった。

 だって……本当は、セレナが欲しい。


 でも、我慢してでも、セレナに幸せになって欲しかった。

 セレナの幸せは、オルバ殿下の妃になること。愛する人と、一緒になること。



 だから、血を吐くような決意で、身を引いたのに。




「僕は、なんのために」



 オルバ殿下が、エミリーとか言う女に夢中になる姿を見て、嫌な予感はした。


 それはダメだろう。それはないだろう。

 そう思って諌めもした。


「なんだ、まさかお前もエミリーを想っているのか?残念だが彼女は私のものだ」



 バカかこいつは?

 そんな男に媚びるしか脳のない性悪の心の醜い女など誰が好きになるものか。


 だがここにきて、僕がセレナを嫌っていると思われていることが仇となった。


 僕がどれほど殿下を諌めても、周りには不思議なほどにエミリーを思うあまりの嫉妬ゆえの行動だととられた。


 違う!僕は、セレナを幸せにしたいだけで──!



「心配するな、セレナとの婚約を破棄したところで、お前が私の側近である事実は変わらない。アーステラッド家との縁はお前と私で繋げば良い」



 頭を殴られたような気がした。


 僕が、年下ながらも殿下の側近として重用された理由。

 そんな思惑もあったなど……。


 確かに、今思えば僕が取り立てられた時期は、殿下がエミリー嬢と出会ってすぐの頃と重なる。


 この愚かな男は、あの女と出会ってすぐに、セレナのことなど捨てるつもりでいたのだ。



 どうすればいいか分からなかった。

 セレナを幸せにしたい。


 セレナの幸せはオルバ殿下と結ばれること。


 だが、あんな男と結ばれたところで、到底セレナが幸せになれるとは思えなかった。


 でも今更、どうすれば……。




 僕の態度がおかしいと気がついていたんだろう。

 殿下は僕に、隣国との交易を自分の代わりに見てくるように言った。


 側近であるとはいえまだ学生であり、年下の僕に?と思いはしたものの、頭の中が答えの出ない問いでいっぱいだった僕は、殿下にとって代えようのない存在になれば、少しは自分の言葉も届くのではないかと思い承諾した。


 僕は、またもや判断を誤ったのだ。




 オルバ殿下がセレナを断罪し、牢に入れ、婚約を破棄したこと。


 アーステラッドの両親がセレナを切り捨てたこと。


 殿下とエミリー・ユリンマスの婚約が成立したこと。



 それらは国を離れていた僕の耳には少し遅れて届いた。



 そして……セレナの処刑が決まったことも。


 信じられない思いだった。



 セレナを……彼女の思いを、幸せを踏み躙るだけでなく、処刑だと……?


 僕の、愛する人を?




 そして分かった。

 殿下はとっくに僕のことなど信用しておらず、この任務もセレナを排除するのに邪魔になる可能性がある僕を、遠ざけるためだけのものだったと。







「ああ、あああ……」


 涙も出ない。

 どうしてこんなことに。


 もうセレナはどこにもいない。

 こんな世界は間違っている。


 殿下やエミリーが、場違いのように抱き合って喜んでいる。


 アーステラッドの両親は悲しみもせずに無表情で。


 何も知らない民衆は、悪女に鉄槌を下したのだとまるで正義を見たかのように馬鹿のような歓声を上げ続ける。


 こんな世界は、間違っている……!



「やり直せるなら、なんでもするのに……今度こそ、2度と間違えはしないのに……」


 涙の代わりにぽつりとこぼれた言葉に、誰かが返事を返した。



『ほんとうに、なんでもできる?』




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