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精霊さまの白銀の御使い―ミーナ―

「お兄ちゃん食べてないで、早く」

「待てよ、ミーナ。もうちょっとだけ食いたい」


草影をかき分けて獣道を進むが兄のケインが中々付いてこず、ミーナは急かした。

この辺は美味しい木の実などがあるがそれでは少しだけ腹は膨れるが生活していけない。

ジャムの手作り何て経験豊富なリアママなどの場合は買い手もあるが、まだ小さなミーナの作ったジャムなど商人は買ってはくれないし、冒険者ギルドでもジャムの依頼などない。

もうちょっと先に行った所にある薬草で高く買ってくれるのがあるからそれを暗くなる前に沢山探したいのだ。

この山は動物ばかりでモンスターは出ないけど、動物とはいえモンスター並みに強い者もいる。

明るい内だと隠れたり逃げたりするチャンスもまだあるけど夜は夜行性の動物が怖い。

そんなに危ないなら取るのをやめろと言われるかもしれないし、実際に冒険者ギルドの職員には何度か言われたことがある。

けどお父さんが鉱山の仕事の毒ガス事件で死んで、お母さんはショックと心労で倒れた。

ミーナたちにはちょっとの余裕もないのだ。

お金を稼ぐ手段があるならばそれをミーナたちががんばらなければ皆が食べていけない。


なのにお兄ちゃんは非協力的だ。

自分一人のお腹を満たす事ばかり考えてる。それに木の実は確かにたくさんあるけどいつ誰が見つけないとも限らない。お金にならないそればっかりにかかりきりにはなれない。

ミーナだってお腹は空いてるし木の実を食べていたいけど、明るい内に山を下りるためには急がないといけないと我慢してるのに。お兄ちゃんはわかってくれない。


少し悲しい気持ちになりながらミーナは先を急ぐ。

お兄ちゃんなんて放っておこう。

前回見つけた薬草がたくさん生えてる所までもう少しなんだ。

先にそこまで行って薬草を探してたらその内追いついてくるだろう。

背負い籠を担いでいるのはお兄ちゃんだけど、先に辿り着いて集めておくくらいならできる。

ミーナは見切りをつけると先を急いだ。


※※※


「うーん……」


ミーナは薬草園に辿り着いていた。薬草園と呼ぶにふさわしいほどここは薬草だらけだ。

それも効果がいいものばかりで冒険者ギルドは色を付けて買ってくれる。

だけど少し悩んでしまう。

ここはまるで薬草園なのではなくて、実際に誰かの薬草園なんじゃないだろうか。

こんなにたくさん薬草ばかり自生してるなんてやっぱりおかしい気がする。

そしたら自分がやってるのは泥棒行為だ。

でもやっぱり生活のためにはここで薬草を摘まない訳にはいかなくてミーナは誰に言うでもなく

手を合わせてもしそうならごめんなさい、と謝った。


それにしてもお兄ちゃんはまだ来ないんだろうか。

もういつも二人で集める分の半分以上集め終わってしまった。

こんなならミーナが背負い籠も担いで一人でここに来て兄には別の仕事をしてもらった方が

家族のためになる気がする。

ミーナはため息をついた。

がんばってるつもりだけど空回ってる気がする。ミーナばっかりがんばってる気がしてしまう。

家族のためを思うならこんなことを考えてはダメなのに。

つい考えてしまうと何だか肩のあたりがずっしり重い気がした。


肩を叩こうとして何かに触る。

ミーナがハッと自分の肩を見るとそこにはテイラーズタランが大きな体を乗せていた。

急いで払いのけようとするが、動物とはいえ毒のあるものを触るのは怖い。

刺されるんじゃないかと考えるとミーナの体は硬直し、伸ばした右手は空で止まった。

テイラーズタランがゆっくりミーナの方を見るように体制を変える。

一発でも刺されたら猛毒でミーナは終わり。

体の芯が冷え、冷や汗のようなものが体を伝うのを感じる。

どうすればいいんだろう……。

ここにきてミーナは兄を置いて一人で行動したことを悔やんだ。

だんだん顔の方に近づいてくるテイラーズタランにただ座り込んだ姿勢で固まっていた。


「ウィンド」


そんな時、女の人の声がした。

気がついたら方の肩のテイラーズタランはいなくなり、後方を走り去っていくのが見えた。

けどミーナはもう一度女の人を見てお礼を言うでもなく声を失ってしまった。

白い布を何枚か重ね紐で縛った様な、驚くほど滑らかで上品な服を女の人は着ていた。

でもそれよりも女性自身が光を発してるんじゃないかと思うほどに綺麗だった。

白に近い銀色の髪がたなびき紫色の花のような凛とした瞳の色が本当に本当に綺麗だった。


ミーナが何も言えずにいると綺麗な女の人はそっとミーナの横に並んで座った。

それにとても緊張したがやっと口が動くようになった。


「ありがとうございます……。」


女の人は困ったような顔をしたがやがて小さくはにかむように微笑んだ。


「いいよ」


声も素晴らしく綺麗で高く澄んだ音色は是非歌って欲しいと頼みたい位だった。

だけどそんなこと言えるはずもなくミーナもはにかんだ。

するとますます女の人は笑顔になりミーナに質問してきた。


「薬草摘んでるの?」


その言葉にミーナはハッとした。

薬草園は誰かのものじゃないかと思っていた所でこの女の人が現れた。

ここはこの女の人のものなのではないだろうか。

もしそうならいままでこのとても綺麗な女の人の薬草を盗んでいたことになる。


「あの……!ごめんなさい!」

「なにが?」


不思議そうにする女の人にミーナは謝罪を続ける。


「ここの薬草勝手に摘んで売ってしまいました!」

「ああ……そんなこと。別にいいよ、趣味でやってるだけだから」


なんなら全部持って行ってもいいよ、と女の人は笑った。

その笑顔と言葉が優しくて優しくてミーナはきっとこの人はこの山の噂にある精霊さまの御使いなんだと思った。やっぱり村の皆が言うように精霊さまの御使いは本当にいたんだ。


「お名前は?私は芙蓉」

「フヨウお姉ちゃん。私はミーナです」

「ミーナちゃん」


精霊さまの御使いのフヨウお姉ちゃん。

フヨウお姉ちゃんに名前を呼ばれると胸の奥から何か温かいものが流れ込む気がした。

こんな気持ちになったのは生まれて初めて。


「一人で来たの?こんな所まで」

「ううん、お兄ちゃんと一緒」

「そう?その割には見かけないけど」

「途中で置いてきました、邪魔だから」

「置いてきちゃったの、それでこんな所まで来られるなんて、ミーナちゃんは強いのね」


苦笑いするフヨウお姉ちゃん。一人で来るからあんな目にあうんだと呆れられただろか。

他の人はいいけどフヨウお姉ちゃんに呆れられるのは嫌だ。


「強くないよ、仕方ないから置いてきただけ」

「そうなの?お姉ちゃんに何があったか教えてくれる?」


優しく聞いてくるフヨウお姉ちゃんに最近のことを全部話してしまった。

鉱山でお父さんが死んでしまったこと、お母さんが無理して倒れてしまったこと、

お兄ちゃんが全然手伝いに積極的じゃないこと、

村長がお父さんが死んでしまってお母さんも倒れてしまったのに税を軽くしてくれないこと。

がんばってもがんばっても自分一人で空回ってる気がすること。


フヨウお姉ちゃんはずっと静かに聞いていた。

全部話し終わった所で静かに一度頷いた。


「ここにはこれから一人できて。そしたら薬草以外も分けてあげるし、簡単な魔法も教えてあげる」

「それほんと、お姉ちゃん!また来てもいいの?」

「もちろん。ただ条件があるの」

「なあに」

「必ずあなた一人で来ることと私のことを誰にも話さないこと。」

「うん、わかった!誰にも話さない!」


精霊さまの御使いだからあんまり人と関わったらいけないのかもしれない。

村長の娘のリリーに見せて貰った絵本でも、精霊さまの御使いは人の欲に巻き込まれると姿を消してしまうってあったから絶対に誰にも話さないようにしないと。

精霊さまの御使いの話が大好きなリリーには悪いけど。


そこから薬草の見分け方や採取の仕方など色々教えて貰ってる内に時間がたったみたいで

空は夕焼け空になっていた。

フヨウお姉ちゃんの話はどれもためになったり面白かったりすることばっかりでミーナは夢中で聞いてしまった。

夜までに地上に降りるにはもう帰らないといけない。

でもこんなに楽しかったのは久しぶりでとっても名残惜しい。

ミーナが別れを切り出せないでいるとフヨウお姉ちゃんが察したように言った。


「もう帰らないとだね。」

「……はい。」


寂しそうな顔をしてしまったんだろうか、フヨウお姉ちゃんは小さく笑うと

また来たらいいよ、と言ってくれた。


「私も帰るけど、帰り道は一人で大丈夫?」

「いつも来てる所を帰るだけだから大丈夫」

「そっか」


じゃあね、と手を振り合うとフヨウお姉ちゃんはその場でミーナが見えない所にいくまで見送ってくれた。

何だかポカポカした気分になって山道を下りていく。

毎日山を登るのは本当はちょっと辛かったけどこれからはきっと楽しい。

結局お兄ちゃんは背負い籠をもって上がってこなかったから、

手にはエプロンで包めるだけの薬草しかないけど、

フヨウお姉ちゃんが高値で売れる薬草とその部分を教えてくれて一緒に採ってくれたから

いつもより売値がだいぶ少ないなんてことはないと思う。


けどお兄ちゃんは本当にどうしたんだろう?

もしかして道に迷ってたりするんだろうか。いつもミーナが先を歩いてたからその可能性はある。

そうしたら自分だけ楽しい時間を過ごして悪かったな。

考えながら来た道を引き返していくとやがて木の実がいっぱい生っている所まで帰ってきた。

すると呆れたことにお兄ちゃんはまだ木の実を食べていた。


「……お兄ちゃん」

「ああミーナ。帰ってきたのか」


木の実の汁で汚れた口元をもぐもぐさせながら話すお兄ちゃんに、

帰ってきたかじゃないよ!っと一瞬怒鳴りそうになったけど、フヨウお姉ちゃんのことを考えてそれは我慢した。

これからは上まで一緒に来てもらわない方がいいから。


「お腹いっぱいになった?」

「うーん、まだちょっと……」

「家に帰ってごはん食べたらいいよ、かえろ。」

「おお、そうだな。帰るか」


ミーナはまだお腹空いたの我慢できるくらいだけど、

お腹がずっといっぱい空いてばかりいるお兄ちゃんは可哀そうなのかもしれない。

ミーナはお兄ちゃんのことを理解してあげたい。二人きりの兄妹だから。

お手伝い乗り気じゃないのはもうちょっと何とかしてほしいけど。


でもお兄ちゃんはお手伝いはめんどくさがるけど、木の実が食べられるここに来るのは好きだ。

それを何とか他の仕事をしてもらうように説得しないと。

フヨウお姉ちゃんとの約束は誰にも言わずに一人で来ることだ。


地上に降りるまでの間に上手く説得できるかな?

ミーナはよしっ、と気合いを入れた。


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