#.エピローグ
本日は最終話とこのエピローグの2話を更新しています。最終話をまだご覧になっていない方はそちらもお読みください。
五島葵は幼いころ何度も来た公園で腕を伸ばした。もう喜寿を超えたのだから体が重いのは当たり前だ。啓太郎が隣にいないのは寂しいが、あと3日もすれば退院してくるので、この桜が散るまでには間に合うだろう。
『こんなになにもかもが満ち足りているのに、どうしてこんなに悲しいんだろう』
この公園に来ると、いつも結婚式の翌日に夫が話したことが、葵の脳裏に甦る。
客観的に見て、私たちはとても恵まれた人生を送ってきた。息子たちは二人とも独立して遠くに行ってしまったが、月に一度は連絡をくれる。孫たちも時折思い出したようにメールをくれる。
確かに悲しいこともあった。嬉しかったはずなのに、もううまく思い出せないことも数えきれない。それでも歓びに満ちた楽しい人生だったと思う。
その時、葵の膝にのった桜の花びらに気が付いた。これをお土産にして、もう一度啓太郎のお見舞いに行こう。今日の面会時間はまだ十分にあるし、一日に二度お見舞いしても問題はないだろう。
啓太郎は喜んでくれるだろうか?
そして3日後に夫が退院したら、この公園の桜はもっと散り始めるに違いない。この年齢の体でできる限り、桜吹雪の中で思いっきりはしゃいで夫に見せてみよう。葵がまだ幼なかった頃のように。きっとあの人も一緒にはしゃいでくれるに違いない。
葵はベンチから立ち上がって、もう一度病院へと向かうために公園を出た。一枚の桜の花びらと一緒に。
完
ありがとうございました。




