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あなたの×××を吸いたい!  作者: ブーカン
最終章 あなたの×××を吸いたい
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第九十話 接吻魔交替劇

 男は冷笑を強め、僕に対してふんっと鼻で笑った――ように見える。


「『アイ・オーセ』にふたりも子がいたとは……。興味はそそられるが、今は我がセナートスの目的、優先させてもらおう」


 長髪の赤毛は僕から眼下へと目を移した。


「あそこだな? あのボロ小屋が忌々しい結界の出どころッ!」


 そう言うと赤毛は、長い髪をバサバサと振り乱しながら空中に身を投げ出した。山に溶けこむ影となって、小さくなっていく。


「逢瀬くん、追うかい?」


 僕を抱えるみぽりんの言葉に、首を振る。


「いや、みぽりんは……このヘリを乗っ取るなりなんなりして、詩織たちのところにすぐに戻ってください。セナートスは組織として動いてきてるはず。詩織たちが危ないかもしれない……」

「逢瀬くんはどうするの~? 追うのかい?」


 みぽりんを見上げ、僕は強くうなずく。


「あればパラシュートで……、なければ枝葉がクッションとなるくらいの高さまで降りてもらえれば、勝手に行きますッ! アイツは僕たちが……、近くにいるはずのすいに知らせて、ふたりでなんとかしますッ!」

「そっか~。頑張るか~。まあ、降下の手段としては、もうひとつあるよ~。ホラ」

 

 みぽりんの視線の先を追った僕は、ゴマ粒ほどに小さいけれど、暗闇の山中でも白くハッキリとした姿を捉えた。上空の僕たちに向かって大手を振るあの白い服、背丈、顔や身体の輪郭りんかく……。見間違えようがない――。


「すいーッ!」


 視界の中で小さく手を振り続ける彼女の姿に、そんな場合じゃないのは判っているけど、僕の目からは涙がこぼれ、空へと消えていった。


「彼女に受け止めてもらうといい。それが一番早いね~」

「はいッ!」

「では、死地に向かうまな弟子でしに、最強の『アドバイス』をくれようか~」


 みぽりんの言葉に頭を上げると、彼は「うぇっへ~」と、例の奇妙な笑いを漏らす。


「キミの気持ちをすべて込めたオナラを、阿武隈あぶくまさんに吸ってもらうといい」

「僕の……気持ち?」


 数週間前だったら「何言ってんだ、このおっさん」といぶかしむところだけど、僕はその「アドバイス」で「操魂そうこんのテレパシー」のことに考えが至った。僕のオナラを吸って「操魂」にかけたすいとの間で、不思議なテレパシーができるという現象――。


「そうそ。そうしたら、何者も寄せ付けない『ふたりだけの時間』がやってくる」

「『ふたりだけの』……『時間』……?」


 「何者も寄せ付けない」という表現で、僕は母さんの言葉を思い出した。「今のすいと、今の僕が受け入れあえば、ふたりにかなう者はいない」……。「テレパシー」にはその先が、「テレパシー」だけじゃない「何か」があったのか? それが「ふたりだけの時間」?

 疑問はいくつも出るが、時間がない。僕は自らの師のアドバイスを、母さんの言葉を、胸に刻んだ。


「判りました、ありがとうッ! みぽりん!」


 意を決して、「離してくださいッ!」と叫ぶ。


「いってらっしゃ~い」


 見送りの言葉とともに、僕を支えたみぽりんの腕が解かれる。僕の身体は重力を受けて、降下を始めた。

 ヘリの爆音が遠ざかり、代わりに、真っ暗の山と、真っ白のすいの姿が近づいてくる。彼女は僕に向かって、一心に手を振り続けてくれている。


「すいぃーッ!」


 落下の風と、体勢を整えるのに苦労しながら僕は叫ぶ。


「……うッ?!」


 落下途上の僕に、急速に頭痛と吐き気が襲来しはじめた。山に近づいて結界呪法の領域に入ったんだ。


「ぐぅぅ……ッ!」


 歯を食いしばって、痛みに耐える。

 耐えろ、耐えろ! 身体を大きく動かす必要はない。僕はただ、すいに向かっていくだけでいい!


「すいッ! 僕を、僕をぉーッ! 受け止めろぉおおぉッ!」

「ヨッシーッ!」


 耐えている間に僕の身体はすいの声が耳に届くまでに近づいていた。そして、彼女を真下に捉えてからというもの、頭痛も吐き気も消えた。すいは「隠しルート」の上で待ってくれているんだ。


「ヨッシーッ! 来て、こっちッ!」

「言われなくてもッ!」


 僕はすいに目掛ける。今やもう、すいの全貌を捉えることができる。

 涼し気な白い服、艶やかな黒髪をふわっとまとめた、いつもの三つ編み。小さな口を大きく開けて、僕を呼んでいる。クリっとしたその瞳を潤ませ、僕の姿を映しつづけながら……。

 ってかそれが判るくらい近いということは――。


ドシャアッ!


「うっわぁあッ?!」

「うほォウッ!」

 

 僕の身体はほとんど墜落ついらくといった形で山の地面に落ちた。すいに見惚れすぎてて、着地の体勢もロクにとってなかった……。


「いて、テて……」


 ジンジンとした痛みが、腕や足、そこかしこから感じられる。こすってしまったのだろう。でもひとまずは、大きな痛みは感じない。

 腕を突っ張って身体を起こすと……すいの顔が間近にあった。すいがちゃんと僕を受け止めてくれたんだ。


「すい、すいッ!」

「ヨッシー……」


 彼女は目を丸くして僕を見つめていたかと思うと、不意に顔をらした。


「……来ないでって、言ったのに……」

「来てと言ったり、来ないでと言ったり……」


 僕は片手ですいの両頬をはさむと、力ずくでその顔を僕のほうに向けさせた。


「……よっひぃ? はひ? はひほれ?」


 口がタコみたいになってるすいの顔を前に、僕は息を大きく吸った。


「勝手が過ぎるのも、いい加減にしろッ!」

「ん……んむぅ?!」


 怒鳴った勢いのまま僕は、すいのタコみたいな口にキスをした。

 驚いたのか、すいの手は僕の両の脇腹に掛けられたが……、引き離すまではしてこない。


「むむぅっ? むんむッ!」


 呼吸も忘れるほどに、僕はすいと口づけをする。


「む……。んむ……」


 息がこれ以上どうにも続かないとなってようやく、僕は唇を離す。彼女と僕と、ふたりは小さく息継ぎをした。


「よ、ヨッシー……?」

「まだ……」


 僕はそうつぶやき、ふたたび彼女にキスをする。


「むぅ……」


 すいの身体から力が抜けていく。お腹に添えられていた彼女の手は、僕の背中にまわされた。

 さっきよりも長く、深く。僕は夢中になっている。

 キスって……ヤバいな……。


「……ぅむぅ」


 彼女は泣いていた。キラキラと月明りに照らされた、涙の粒を地面に伝わらせていた。


「……ごめん、すい。イヤ……だった?」

「……そうじゃ……ない。イヤなわけじゃないけど、ワタシたち……ワタシとヨッシーは……」

「……すいが心配してることは、大丈夫」 


 僕の微笑みに、すいはひとつ瞬きをして、キョトンとする。


「僕たちは、きょうだいじゃない」


 彼女はもうひとつ、瞬きをする。


「……マジで?」

「マジで」

「……マママのマジで?」

「マママのマジで」

「……ヨッシーッ!」

「うぉぅ!」


 すいが突然に上体を起こして僕に抱きついたものだから、僕の頭はがくんと揺れた。今の勢い……ちょっとすじをやっちゃってるかも……。


「ワタシ、ワタシ、ダメだと思ってぇ! ヨッシーをこれ以上好きになっちゃいけないってぇ!」

「うん……うん……」

「だから、離れようって! いなくなろうって! でも、でもぉッ!」

「うん……」

「ひとりになっても、ヨッシーが恋しかったぁ! どうしようもなくヨッシーばっか考えてたぁッ! うわああぁあッ!」


 泣きじゃくるすいを強くだきしめる。背中をゆっくりと撫でてあげる。

 あんなに強いのに、こんなに弱い。小さな少女の身体が、僕の腕の中で震えていた。


 すいが落ち着いてきた頃合いに、僕は身体を離して、彼女の赤くらした目を見つめる。


「すい。僕は君が好きだ。僕の大事な人だ」

「……ッ?!」


 すいは目をまるくして、パチパチパチッと瞬きを繰り返す。


「さっきのキスは……、はじめのキスは、水くさすぎるすいを、本当は殴ろうとおもってたんだけど、その代わり……」

「……え? 殴る代わりが……キス? どゆこと?」

 

 うん、そうですね。殴る代わりにキスとか、イカれてますよね。


「次のキスは……、もっとすいにキスしたい、僕の気持ち……」

「あのエッロいキスが? ヨッシーの気持ち?」

「……言うな。自分でも……、恥ずかしい……」

「……じゃあ、ワタシとヨッシーは……?」


 僕に言わせようと、上目遣いをしてくるすい。

 ああ、もう……こんちくしょう……。


「まごうことなき、両想い……?」

「や、やや、ヤ、や……ヤッホォーぅィッ!」


 喜びの声を上げ、むしゃぶりついてくるすい。

 ちくしょう! カワイイな、クソッ! なんだもう! なんだか負けた気分ッ!


「なんて日だ! ヨッシーが好きだなんて、ワタシを好きだなんて! なんて日だぁッ!」

「ちょ、ちょちょ! 落ち着けッ!」

「水くさいことをしたらキスしてもらえるとか! アメリカ大陸以来の新発見すぎるッ!」

「そんな常識はないからなッ! もう二度と勝手にいなくなったりすんなッ! ずっとそばにいろ! ずっと僕の隣にいろ!」

合点がってん承知しょうちぃッ!」


 フンフンと、飽きることなさそうに僕の頬に自分の頬をスリスリするすい。僕はまあ、正直言うと、ずっとそうしていたいとは思ったけど、彼女の身体をまたも離す。


「ヨッシー?」

「……んなことしてる場合じゃなかった……」

「よく言うね。エロいヨッシー、エロッシー」

「……うっさい」


 僕はすいから目を離すと、長髪の赤毛が降り立っていった方へと目を向けた。


「アイツを、セナートスを追わないと……」

「ああ、おやしろのほうに行ったね。呪法の『祭壇』、壊しにいったんでしょ?」

「うん」

「『祭壇』には『プロテクト』がかかってるの。ワタシも壊せない、強いヤツ」

「そっか……なら……」


 大丈夫か? と思っていた矢先、すいが宙を見上げて「あ」とつぶやいた。


「でも……。壊されたっぽいかも……」

「ホラぁッ!」


 僕は立ち上がると、すいの手を掴んだ。


「マジで……、ああッ! 我を失ってた! 行こう!」

「むふっ。……うんッ!」


 すいも立ち上がり、僕たちは手をつないだまま、お社目指して駆け出した。

ご感想、ご罵倒、ご叱責、お待ちしております!

もちろん大好物は褒めコメです!

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